絶対魔人戦線オオイタ。【短編予定】

C.C.〈シーツー〉

第0話 非日常。

「どうして……こんなことに……」

 

 そこは暴風雪の吹き荒れる、凍てついた大地。白一面の景色はさながら北極を思わせるほどだった。

 その広大な雪景色に、ポツンと一人、どこかの学生が立ち尽くしていた。


 彼に進む道はなければ、懐ける希望すらない。ほんの少し前までは、田舎の高校に通う平凡な人間であったのに、あの災害が日本の太平洋沿岸地域を襲ったせいで、彼どころか地球全体が今や”人類滅亡”の危機に瀕している。

 

 本当はここも、北海道より温暖な地域なのだ。


 少年の故郷である大分県は、温暖多雨で温泉と地熱発電が特徴の県だった。

 

「おい、そこの少年! 早く中へ!」

 背後から少年を呼ぶ声が聞こえる。救助の声だ。

 だがその救いの声はこの嵐の中にかき消され、救世主は何かを言っているようだが全く聞き取れなかった。


「さぁ、早くこっちへ」


「なんで……どうしてこんなことになったんですか!!」

 少年の体温は著しく低下し、命に関わる状況だった。だが当の本人はそんなことよりも、今の状況の惨劇さに嘆き雪面に腰を落とした。


「……そりゃあ、もとを辿ればあの巨大地震だろうよ。でもな、あの事件はきっと自然の摂理なんだ……自然を破壊し、生物の食物網を無視しすぎた人類という種が、神に”排除すべき対象”として認定されたんだよ」


 暴風と雪、それと氷塊から少年の身を守るために、声の主は分厚い布でできた傘を少年にかけた。


「そして戦後から紡いできた人類の絆も、未知の世界では紙くず同然だったさ」


 一年前。

 極東の国”日本”に、突如として海溝型の巨大地震が発生した。


 太平洋側地域である関東や四国、九州は地震の二次災害である大津波の影響を強く受け、翌日には国としての機能が麻痺していた。

 それは、昔の東日本大震災をも上回る損害。


 それでも十分な被害であったのだが、真に日本を破滅に導いたのは、静岡県と山梨県にまたがる富士山という活火山の大噴火だった。


 太平洋側沿岸部に位置する日本の首都東京は、巨大地震による大津波の時点で都市としての機能をほぼ失っていた。そんな満身創痍の状態であった東京を完全に再起不能にしたのが、噴火に伴う火山灰である。加えて、国民には重要機密として公開されなかった事実も存在していた。


 魔獣。

 瀕死の日本をこれでもかと襲う、神の怒りの象徴。その地球外生命体は富士山火口付近から出現していることが米軍によって確認された。

 その魔獣と呼ばれた脅威の生命体はファンタジーに出てくるような”魔法”らしきものを行使し、かつ魔力という未知の物質を放出することがここ一年で判明した事実だ。

 

 驚くことに、富士山の噴火という事件はその国だけの話ではなかったのだ。

 二日後、アジア、その二日後にヨーロッパ、同じく二日後にアメリカ大陸の活火山が突然同時に活動を活性化させたのだ。

 活性から噴火までの周期が偶然でないことは明らかだ。

 そんな火山から出現した魔獣は、人々を蹂躙し、街を占領。翌年には着実に人類の生命圏を侵していった。

 

 それでは、今少年らのいる見渡す限りの雪原はなんなのか。

 

 結論から言えばプチ氷河期である。太陽の活動が低迷期に入ることから地球の表面温度も低下し、世界の川や海はほとんどが凍結してしまったのだ。


 巨大地震の発生から、世界中での火山噴火。そこから這い出る謎の敵性生物、加えて、少し早めのプチ氷河期。人類が解決すべき課題は一年足らずでその範疇を超えた。

 

 一部の人類は脱出用のロケットで地球脱出を目指し、一方の残された三分の一未満の人類は、今も獣の跋扈する世界でなんとか命を繋いでいる状態というわけだ。

 

 氷河期の到来は既に数十年前から発覚していた事だった。小規模とはいえ地球上で今までのように生活することは不可能と判断した人類は、必要最低限の広さで地下都市を築いた。


 その名は『アイランド』。


 これまでの人類が築き上げてきた科学技術を、九州のある場所へ集結させ、居住可能の新たな大地を作った。

 地下都市の天井には空を装った液晶が一面に張られ、人口太陽なるものも建造された。


「俺たちは、絶滅するまでここに閉じこもるんだよ……」

 そう言う初老の男性を横目で見ながら、少年は今の人類を見つめていた。




  九州の沿岸部に位置する、日本全国でも有名な大分県の北東部。四国山地と中国山地にはさまれた瀬戸内気候に属しているが、冬の時期では北九州方面と関門海峡からの季節風で天候が悪くなったりもする。

 別府温泉で有名の大分県は都会と言われればそれは違う。都心部よりも物価は低く、何より自然に富んでいる。たとえビルの並ぶ所でも、少し車で移動すればすぐに畑や田んぼが確認できるはずだ。


 去年入学した元中学生、高校二年の時雨誠一しぐれせいいちは、今日も退屈な日々を送っていた。

 中学の頃の同級生は大半が別の高校に進学していたようで、高校ではもちろん、ただでさえ少なかった誠一の交友関係は現在無いにも等しい状態である。

 

 だがそんな陰の誠一にも、少なからず友人と呼べる人間は確かにいた。趣味が合い、話すだけで楽しいと感じられる親友のような人間、見ていて飽きないと思えるほどの超絶美人な先輩。どれも日常と呼べる物語の中で、誠一はもうすぐ転機が訪れても良い頃合じゃないのか、と最近考えるようになった。なぜなら、仲の良い女子生徒とラブコメに発展するような展開もなければ、友人との熱い競争劇を演じるつもりもない。

 誠一が”当たり前”という日常に嫌気がさしたのは、アニメや小説などのその手のものに魅了されたという要因が大きく影響していない、とは言えないが、誠一はやはり暇で暇でしょうがないのだ。


「はぁ……………………」

 肺に溜めた酸素を二酸化炭素へ変換し、体外へ一気に放出する。これで何度目のため息もわからないまま、誠一は自分の机に突っ伏した。

 目を閉じ、この世界から一旦離れ、暗闇の中へと落ちてゆく。しかし、そんな誠一を起こすほどのざわめきが教室内に起こった。

 

 午前の授業を終え、弁当の香りが充満する教室内では誠一を除く全ての生徒があれやこれやと騒ぎ立て、大事だと言わんばかりの状況だった。


「え……なんかあったのか……?」

 困惑しながら近くにいる友人へ話しかける。

 勘違いしてはいけないのが、誠一はボッチだがコミュニケーションが苦手ではないとうこと。オドオドしながら話しているようじゃ異世界に行ってもなにも出来ないぞ。と誠一は思っている。


「それがさ、さっき富士山噴火したみたいなんだよね……先生達が職員室でテレビつけながら慌ててるってよ」


「え…………いや、え……まじか」

 正直どこでなにがあろうが誠一の知ったことでないが、あの有名な富士山が噴火したという知らせは驚くに値する事件なのだ。

 偶然か、誠一は昨日の授業であった火山の話を思い出していた。

 

 始まりは何の気なしにある生徒から発した日本の火山についての話題からだった。授業の内容とはかけ離れた内容だったものの、先生が火山オタクなようで、つい暴走してしまったのが実に印象的だった。

 あの授業では、丁度富士山の話についてしていた。

 軽くまとめると、富士山がもし噴火したら、東京には噴火した火山灰が東京都一面に降り注ぐだろう、ということだった。


 つまり現在の状況は、有り体に言えば日本のちょっとした緊急事態である。教室がいつも以上に騒いでいたのも、きっと昨日の先生の話が影響しているのだ。


 ――――だが、誠一が聞いた話にはまだ続きがあった。


「俺たちは大した被害は出なかったけど、少し前に超でかい地震があったらしい。富士山の噴火もそれが原因だとかなんとか……」

 机の下を見ながら不自然な話し方をする友人を見なかったことにし、誠一は席から立ち上がり、教室から出ると廊下の窓を見た。


 もちろんここから富士山なぞ見えるはずもないのだが、ちょっとしたハプニングの重なりに誠一も内心焦っていた。もしかしたら地震の影響で学校が臨時休校になるのではないか、と。


 そうもやもやしているうちに次の授業のチャイムが鳴り、五時間目へと時間が進む。

 結局、地震による臨時休校の話は、職員室で何度か出たらしいが休校にしようという話にまでは発展しなかった。実際地震は収まっているし、第一被害が出ていないのだから当たり前といえば当たり前なのだが。


 暢気な誠一だったが、それは仕方のないことだったのかもしれない。

 この先、誠一に待ち受ける未来は、きっと生易しいものではないのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絶対魔人戦線オオイタ。【短編予定】 C.C.〈シーツー〉 @nqi01696

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ