朱、此の色に。

新佐名ハローズ

朱、此の色に。

 

 

 もうすぐ夜が明ける。


 作戦は概ね成功し、相手の戦意は挫かれた。


 一般兵は遁走する者多数。


 目標は殲滅を確認。将校クラスは軒並み始末した。


 敵部隊は未だ一部が動いているようだが、此方では確認が取れない。


 余程のイレギュラーが居ない限りは間も無く制圧されるだろう。


 白み始めた空を見遣り、懐の潰れた小箱から細い棒切れを一本取り出す。


 何時もは火を点けない。僅かな明かりすらも命取りだと身体に染み付いているからだ。


 まあ……事ここに至っては最早どうでもいいか。


   『点火イグニ


 何度使ったか分からない決まり文句を思い浮かべ、黙して火を付ける。


 もう何時ぶりだろう? 前は彼奴に抱かれた後だったか。


 最早願掛けのように私は吸うのを止めていた。


 またあの情けない面を見て、下らない事で笑いながら大して旨くもない飯を掻っ込む。


 たったそれだけの事が自分には酷く幸せだったんだと、今更ながらに思い出した。


 出会いなんて下らない。私は身寄りの無い叩き上げ、向こうは士官学校出の軍閥の息子だ。


 親が偉いんだかで捩じ込まれ、腕っぷしは無さそうだったが頭はよく切れる。


 私がちぃとだったもんだから、ピタリとハマる運用の出来る彼奴が宛てがわれて……まあそう言うこった。


 何処が良かったんだか傷モンの私を気に入って、どうにか前線へ私を送らないようにしようとしたみたいだったが。


 こんな状況じゃ都合良く使える駒を軍部が手放す訳が無い。結局は無駄な足掻きだったんだろうね。


 で、今に至る。


 作戦は成功、向こうの頭は潰した。大局で言えば此方側が優勢を引き寄せつつある。


 このまま行けば長かった戦も終わらせられるかも知れない。


 私は……多分それを見る事は叶わないだろう。


 太陽が昇る。あけの色がどす黒く染まった私の身体を照らして――


「……っ……アルケナ! ……アルケナっ!」


 もうお迎えが来たのか? こんな所に居る筈の無い彼奴の姿が見える。



 参ったね。最期に幻覚を見るなんざ、私らしくも無い……。

 

 

 

 

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