【KAC20247】『色』の成り立ちと、変わり者夫婦【下ネタ注意】

ほづみエイサク

『色』の成り立ちと、変わり者夫婦

 漢字には、元になった古代の文字が存在する。



――甲骨文字。



 最も古い中国の文字だ。

 簡易化した図形のような形をしている。


 それが変化して今我々が使っている漢字へと成ったのだ。


 しかし、同じ漢字と言っても『成り立った経緯』は多岐に渡る。

 


 さて、ここで『象形しょうけい文字』という言葉を聞いたことがあるだろうか。



 これは『どのようにして成り立ったか』で漢字を分類したものである。


 他にも『指示文字』『会意文字』『形声文字』などがある。


 『象形文字』は『木』など、モノの形をそのまま表した文字である。

 『指示文字』は『上』など、形として表しにくいものを図で示したものだ。

 『会意文字』は『明』など、二つ以上の文字を組み合わせて作った字のことだ。

 『形声文字』は『講』『構』『溝』など、〝意味〟を表す字と〝読み〟を表す字を組み合わせてできた字だ。

 

 

 さて、ここで疑問に思わないだろうか。



 『色』


 

 この一文字はどのようにして成り立ったのか。


 色には形はなく、文字だけで指示することができず、複数の文字が組み合わされているようにも見えない。



 しかし『色』という漢字がある時点で、成り立った歴史があるはずなのだ。



 実は――


 『色』という漢字は会意文字である。



 意外だと思うだろう。

 『色』は二つの文字の組み合わせで出来ているのだ。


 さて、ではどこで分けるのか。


 上部分『ク』部分と、下部分『巴』だ。


 それぞれ見慣れない文字だろう。



 『ク』は『人』を表している。

 『巴』は『ひざまずく人』を表している。



 どうしてこれが『色』という文字につながるのだろうか。


 『色』は視界に映る『色』だけではない。


 色欲。

 〝男女間の情欲〟という意味も含んでいる。


 この意味を考慮すると、『跪く人と、その上にいる人』に新しい解釈が生まれる。



『巴=跪く人』は女性。

『ク=上にいる人』は男性。



 男が、跪く女性の上に乗る行為。



 つまり、それは〝セックス〟である。



「そう! 本来『色』という一文字は『セックス』を意味しているのである!」



 メガネをかけた男性が力強く叫ぶと、静寂が周囲を包んだ。


 しばらくしてから――



「はああああああぁぁぁぁぁぁ」



 赤茶髪の女性が深いため息をついた。

 その後、ゆっくり顔を上げて、うんざり顔を見せつけた。


 この二人は夫婦である。



「ねえ、だから何だって言うの?」

「君は今、カラーコーディネーター検定の勉強をしているからだ」



 夫はテーブルの上で広げられたテキストを指差しながら、言った。



「わかっているなら、邪魔しないで。

 一週間後に試験だから、勉強に集中したいんだけど」

「君はね、今とんでもないことをしてるんだよ?

 夫の目の前で」



 夫の神妙な顔を見て、妻は眉間にシワを寄せる。

 明らかに「面倒くさい」と顔に書かれている。



「ただのカラーコーディネーターの勉強なんだけど?」

「カラーって、色という意味だぞ」

「そりゃそうでしょ。小学生でも知ってる」



 夫は「俺の話を聞いてなかったのか?」と言わんばかりに肩をすくめた。



「言ったよな。『色』という字はセックスを表していると」

「言ったね。勉強にはなったけど、それが何だって言うの?」



 意気揚々と、夫は言い放つ。



「カラーとは色。色とはセックス。

 そう! お前は今、セックスコーディ―ネーターの勉強をしていると一緒なんだぞ!?」

「はああああぁぁぁ!?」



 夫の理解不能な言動に対して、妻は素っ頓狂な声を上げた。



 尚『色=セックス説』は、中国春秋時代の文字――金文を見れば誤りである、と言われていたりもする。

 だが、そんなものは気にしない。

 だって、人が二人いるから『人間の表情(顔色)を示している』という説には納得できるわけがない。

 セックス説の方が圧倒的に説得力がある。



「そんな理屈はおかしいでしょ。ただの漢字だよ。そういうのは本当に止めて。

 小学生じゃあるまいし」



 妻の言葉を聞いた瞬間、夫は目を見開いた。



「はっ、気付いてしまった!」

「何に?」



 苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、妻は訊いた。



「小学生に『色』という漢字を書かせるシチュエーションは中々罪深いんじゃないか!?」

「……はぁ」

「幼気で無垢な少年少女に『セックスのメタファー』を書かせている、ということになる。

 これは非常におもむき深い」



 夫は「世紀の大発見だ」と言わんばかりの笑みを浮かべた。

 だけど、妻の視線はさらに冷たくなっていく。



「あなた、そこまでアホだったの?」

「そんなわけないだろ。オレは至って真面目だ」

「それがアホの証明でしょ!」



 妻は頭を抱えて、テーブルに突っ伏した。

 そして早く会話を切り上げるべく、口を開く



「それで、何がいいたいわけ?

 まさか、邪魔をしたいだけなんて言わないよね」



 夫はなぜか顔を背けて、さらには頬を赤らめた。



「最近、ご無沙汰だよな……」



 妻は思わず、顔を上げた。

 ご無沙汰とは、夜の営みのことだろう。


 最近、妻はカラーコーディネーター検定の勉強ばかりで、夜に時間を取れていなかった。


 それで、夫も不満が溜まっていたのかもしれない。



「あんたねえ、誘うの下手すぎでしょ」

「……別にいいだろ」

「あーはいはい。わかった。今夜は相手してあげるから。先にお風呂に入ってて」



 妻がどこか嬉しそうに言うと、夫は顔をパァッと明るくした。



「ああ!」



 夫は散歩に行く犬のような速さで、お風呂場へと走っていった。

 その背中を見送った後、妻はテキストに目を落とした。


 だけど3分経っても、ペンを持つ手は全く動いていない。


 視線はずっと、テキスト内の『色』という一字を見つめてしまっている。



「あーもー! 勉強が手につかなくなったじゃん!」



 そう叫んだ後、妻はお風呂場に向かった。

 夫がすでに入っているのに。


 今夜は二人で『色』を作ることになるのだろう。


 そんな、変わった夫婦の一幕。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

綺麗になりそうな『色』というお題で、ここまで汚くなってしまった……



参考文献:

①都外川先生の色彩学レッスンvol-1〜色の漢字の成り

https://www.cocolor.biz/colorlesson/%e9%83%bd%e5%a4%96%e5%b7%9d%e5%85%88%e7%94%9f%e3%81%ae%e8%89%b2%e5%bd%a9%e5%ad%a6%e3%83%ac%e3%83%83%e3%82%b9%e3%83%b3vol-1%e3%80%9c%e8%89%b2%e3%81%ae%e6%bc%a2%e5%ad%97%e3%81%ae%e6%88%90%e3%82%8a/


②OK辞典

https://okjiten.jp/kanji143.html


③色 - ウィクショナリー日本語版

https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%89%B2#:~:text=%E4%BC%9A%E6%84%8F%E3%80%82,%2F*sr%C9%99k%2F%EF%BD%9D%E3%81%AB%E7%94%A8%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82


④小学生で習う漢字の成り立ち 個別指導WAM

https://www.k-wam.jp/wamken/41576/

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