鬼ヶ島防衛戦隊

セントホワイト

鬼ヶ島防衛戦隊

 昔々ある所に、鬼ヶ島という島があった。

 そこでは鬼たちが暮らし、日々島の外からやってくる山賊や海賊を倒して暮らしていたが、その日は誰もが頭を抱える事態に追い込まれていた。


「緊急事態だ」


 島の中心部に造られた村の中で一際大きな家屋があり、その中では五人の鬼たちが丸太の椅子に座り顔を突き合わせていた。

 そしてこの村の村長の息子である次期村長、赤鬼は腕を組みながら緊急招集した理由を切り出した。


「一体何があったのよ?」

「ま、まさか一大事なのか!? やっぱり人間たちが徒党くんでオラたちの村を焼き払うつもりなのか!?」

「青鬼、落ち着けって」


 桃鬼の質問に心配性な青鬼が話を大きく膨らませ、嫌な想像ばかりを口にし始めるのを緑鬼が窘めつつも落ち着かせようと肩を叩く。

 普段から集まれば一連の流れはお決まりのようなもの。しかし今回は定例の報告会ではなく緊急に集められたことでいつもと違うのは自分を含めて全員が承知していた。


「それで何があったんだ?」

「奴らが来る」

「奴ら?」

「…………桃太郎だ」


 赤鬼の言葉で部屋の中に衝撃が奔る。青鬼は丸太から転げ落ち、桃鬼は立ち上がり、緑鬼は頭を抱え、俺は天を仰いだ。

 それは旧き言い伝えだった。桃鬼の一族が占った鬼たちの滅びの運命の日のことで、曰く人間たちの中から桃太郎という鬼よりも恐ろしい強き者が凶暴な獣を従えて鬼ヶ島に上陸しては鬼たちを鏖殺するという。


「それは……確かなのか?」

「島の外で暮らす者たちが襲撃を受けたらしい。その生き残りが命からがら島へと辿り着き、我らのもとに情報を伝え……そして亡くなった」

「なんてことだ……」

「占いは本当だったんだ! ああ怖い! 恐ろしい! オラたちの平穏を壊しにきた悪鬼だ! オラたちは皆殺しにされるんだ!」

「落ち着けと言うてるだろ、青鬼! 赤鬼よ。襲撃された村はどうなったのだ?」

「……子供さえも、生き残ってはいないらしい」


 誰もが頭を抱えた。その惨状を想像するに沈黙する以外に無かった。丁寧に丁寧に桃太郎は鬼たちを狩っていったのだという。

 身を隠す者も居たが、例えそれが壺の中や土間の下であっても森の中であっても鼻の良い獣がニオイで追いかけ、空から地上を見通す獣が知らせ、野山を縦横無尽に移動する獣が誘導し、桃太郎が嬉々として仕留めにくる姿はまさに悪鬼そのものだ。


「……それで、どうするのよ。全員集めて他の島に逃げ出す? また開墾からやり直すの?」

「無理だ。鼻も目もいい奴らのことだ。逃げた所で追いかけ回され、散り散りになったら最期だろう」

「奴らの目的は? もしかして財宝か? それならくれてやればいい」

「それも考えた。だが聴いた話では奴らは鬼たちを皆殺しにしたあとに金品を奪って次の集落に向かっていくらしい。しかも最後は村を焼き払う徹底ぶりだ」

「最悪だな。どうあっても我々を一人残らず鏖殺するつもりらしい」

「ああどうしたら! どうしたらいいんだよぉ! オラはまだ死にたくねぇ! 死にたくねぇよぉ……!」


 絶望的な状況なのを会議に参加した誰もが理解したところで、赤鬼は机を叩いて立ち上がる。


「そこでだ。俺は戦う以外に選択肢はないと考えている」

「……確かに。でもどこで?」

「もちろん。ここ、鬼ヶ島でだ」

「そんな!? 村人だっているんだぞ!?」

「全員で戦うしかないんだ! 俺達が生き残る道はそれしかない! この島なら隅々まで知っている。だが違う場所で戦えば少しの不利が致命傷になりかねない! ここだ! ここで戦うしかないんだ!」

「……大勢死ぬぞ?」

「負ければ、全員が死ぬ」


 断言するだけの根拠があり、赤鬼は譲るつもりは一切ない様子だった。

 俺達各々が鬼ヶ島で産まれて育ってきたことで、幾つもの思い出がある愛着のある土地を戦場にすることに強い忌避感と嫌悪感に苛まれた。

 しかし桃太郎は事実としてこの島に向かっているらしく、恐らく遠からず奴らはやってきてしまうことだろう。

 その時、何の準備もしていなければ抵抗すら出来ずに死ぬことだろう。

 選択肢など、最初から無かったのだ。


「分かった。戦おう」

「黄鬼!? 正気か!?」

「正気だよ。海賊や山賊が捨てた武器がある。それらを活用して女子供も武器を持って戦うんだ。分かるだろ? そうしなければ誰も生き残れないんだ……」

「それは、そうかもしれないけど……」

「今から村人を全員逃がすとしても、恐らく途中で奴らと戦うことになる。逃げてる最中に追い立てられるなんて愚の骨頂だ。殺してくれと言ってるものだ。なら戦う。ここで戦う。今から準備すれば奴らを逆に倒せるかもしれないんだから」

「黄鬼……分かったよ。お前までそういうなら、俺も覚悟を決めるさ」

「緑鬼まで……ああもう分かったわ! 私も覚悟を決めるわよっ!」

「桃鬼まで本気!? 殺されるかもしれないんだよ!?」

「青鬼も男なら覚悟決めなさい! アンタだって生きたいでしょう!?」

「うぅ……わ、分かったよぉ」


 次々と決意を固める仲間たちに渋々と青鬼も覚悟を決める。

 全員が戦う覚悟を決めたことで赤鬼は頭を下げて礼を言うと、高らかに宣言する。


「ありがとう。ではここに、鬼ヶ島防衛戦隊を結成する! 目的は桃太郎の退治だ! みんな、絶対に勝つぞ!」

「「「「応っ!」」」」


 そして、この日から数日後鬼ヶ島では歴史に語り継がれるほどの大激戦が行われることとなるのだった。

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