王国の暗殺兄妹は黒でありたい
国城 花
王国の暗殺兄妹は黒でありたい
ギルドとは、商人や職人、冒険者などで結成された職業別組合である。
とある王国では、様々なギルドが人々の生活を支えている。
特に冒険者が多いこの国では冒険者ギルドが最も多く、最近も新しい冒険者ギルドが設立された。
「その冒険者ギルドを第二王子殿下が調査したところ、暗殺者や犯罪者の集まりだったというわけ」
「ギルドを暗殺者たちの隠れ蓑にしようとしたのね」
「そういうこと」
2人は暗闇を速足で進みながら、ささやくように会話する。
常人の耳ではその足音も話し声も捉えることはできない。
「我が国の第三王子を狙って暗殺者を学園に送り込んだのも、第一王子が王太子になる時に王城に爆発物を送ってきたのも、姫の周りに付きまとっていた不審者も、第二王子が出席した夜会にいた不審者も、全部そのギルドの仕業だった」
「王女様が新しいギルドの不審な動きや第二王子を狙う不審者のことに気付いていて、そのことを伝えてようとしてくださったのね。それなのに、何故か第二王子と婚約することになられたのね」
「殿下の鈍感さにはいつも頭が痛い…」
夜会で第二王子の付き人をしていた兄は、その時の苦労を思い出したのか額に手をあてている。
「そのギルドの狙いは何かしら」
「まだそこは調査中だけど…ここの国は冒険者も多いけど傭兵も多い。戦争をおこそうとしたのかもしれない」
「王族を害することで、火種をつくろうとしたのね」
「そういうこと。まぁ理由が何であれ、俺たちがやることは変わらないよ」
「そうね」
そう話しながら、2人は速足である場所へ向かっている。
「まったく…お前と仕事をする時はいつも時間に余裕がない」
「きょ、今日は身だしなみに時間がかかっただけよ」
「いつものように赤か黒を着ればいいだろう。汚れが目立たないんだから」
「色が決まっていても、どの服を着るか迷ってしまうの。淑女とはそういうものよ」
「まぁ、そういうことにしておこう」
自分の妹が淑女と言えるのかは甚だ疑問ではあるが、そのことについて聞くと面倒なことになるのは目に見えている。
目的地に近付いてきたので、2人とも無駄な会話をやめる。
新しい木の匂いが香る建物に音もなく侵入すると、足音を立てずに建物内を移動する。
どうやら建物中央の部屋に人が集まっているようだ。
2人はその部屋に近付き、武器を手に持つ。
「依頼内容は?」
「抹殺」
「了解」
すっと部屋の扉を開け、暗闇に紛れて部屋の中に侵入すると、まず部屋の灯りを消していく。
「なんだ?」
「おい、誰か灯りをつけろ」
一気に暗闇に包まれた部屋の中で、灯りをつけようと数名が動く。
猟犬は、群れから離れた者から狩っていく。
ドサリ、ドサリと重いものが倒れる音が続き、声が減っていく。
「おい、お前らどうした?」
「お頭!何か…何かが……」
「おい!状況を伝えろ!」
しかし、それに応える声はない。
やっと灯りがついたと思ったら、そこには倒れて動かない部下たちと、若い男女が立っていた。
黒い服を着た男と、赤い服を着た女だった。
「お前ら…隣国の、国王の犬か」
「猟犬と呼んでもらった方が気分が良いわ」
まだ少女と言えるほどの若い女は、手に長い針のようなものを持っており、そこから赤い血がぽたぽたと床に垂れている。
「国王の命令を聞くことしかできない脳の無い犬だろう」
「まぁ、犬であることに変わりはないからその辺はどうでもいいよ」
若い男の手には短剣が握られ、黒い服にはべったりと赤い血がついている。
「国の汚れ役を任される犬か…。なぁ、お前らも俺と同じ黒側の人間だろう。見逃しちゃくれないか」
男は一縷の望みをかけて、2人を見つめる。
「暗闇にしか生きれない人間はいる。ここはそういう奴が集まる場所だったんだ」
「だから何だと言うのかしら」
若い女は首を傾げる。
「私たちはあなたの言う通り、命令を聞くことしかできない脳の無い犬。どれだけ情に訴えても無駄だわ」
チッと男は舌打ちを打つ。
腰にある剣に手をかけた時には、胸に短剣が突き刺されていた。
ゴポリと嫌な音が鳴り、口から血が溢れる。
若い男と女は、血だまりにくずれ落ちる自分をただ無表情で眺めている。
「…お前らも…黒い人間……俺と同じ末路をたどる…だろ、う……」
それだけ言うと、男は絶命した。
「黒は悪い奴って、誰が決めたんだろうね」
「黒は何色にも染まらない色。私たちの忠誠心は、誰にも侵されることのない色なのに」
武器の赤い血を拭うと、2人は武器をしまう。
どれだけの赤い血を被っても、黒色は変わらない。
ただ1人の主のために、その黒色を貫き通す。
2人は倒れた男たちに背を向けると、暗闇に姿を消した。
王国の暗殺兄妹は黒でありたい 国城 花 @kunishiro
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