色に出でにけり

西しまこ

物や思ふと人の問ふまで

「ねえねえ、なんかいいことあったでしょ?」

「なんにもないよ」

「うそうそ! なんか違うんだよ」

「ほんとに、なんでもないったら!」

「うんとね、彼女出来たでしょ、旭くん!」

「え? な、なんでわかるの?」

「だって、顔に出てるもん。恋してますって」

 僕はクラスメイトの陽菜にそう言われて、思わず顔が真っ赤になってしまった。それから、カンナに秘密にしようと言われたのに、どうしよう? と思っていた。


「てことがあってさ。……ごめん、カンナ」

 夜の公園で、カンナと二人ベンチに座りながら、僕は言う。

 カンナは二人がつきあっていることは秘密にしようと言っていたのだ。

 カンナは僕の手をぎゅっと握ると、にっこり笑って言った。

「仕方ないわよ。旭、わかりやすいから」

「カンナ」僕はカンナの顔をじっと見た。

「それが旭のいいところなんだけどね」

 カンナはそう言うと、僕にキスをした。

「でも、こういうのは、ないしょ、ね?」

「うん、カンナ」

 僕はカンナにキスを返す。

 星空の下、深くて甘くて長いキスをする。手を握りながら、

 知らなかった。

 つき合う前よりも、つき合ってからの方が、ずっと片想いみたいだ。だけど、カンナが僕のことを好きなのはわかっている。わかっているのだけれど、つき合う前よりもカンナのことがもっとずっと好きで、僕は毎日切ない。

「相手がカンナだってことは、言っていない」

 カンナはくすくす笑いながら、「あたしはだって、隠すのうまいから」と言う。

 それはほんとうにそうなんだ。

 心配になるほど。

 クラスにいるとカンナは、まるでただの友だちで、こういうのが夢ではないかと思ってしまうほどなんだ。

 だけど。

 僕はカンナを抱き締める。

 だけど、わかっている、カンナの気持ち。

 僕といるときは、僕にだけしか見せない顔を見せてくれる。それが僕をあたたかくする。

 つき合う前よりもつき合ってからの方が、気持ちの揺れ幅が大きい。

 甘く切なく。

 今まで知らなかった感情を連れて来る。

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