第4話 人魚姫とじゃがいもとラーメン屋

あんな話をされたがその週も次の週も超常現象の類とは出くさなかった。

やはり早々出くわす物でもないのだろうか。

「なぁなぁ、俺一年だけど今度の試合出さしてもらえるって!」

「高木はハンドボール部上手くいってるんだな、ポジションは?」

「補欠っ‼︎」

「補欠かよっ‼︎ まぁ一年だしな」

「享介は? 部活どうなん?」

「まぁ部員が良い人多いから楽しい?のかな」

「なんでそこ疑問系なんだよ」

「まぁ基本掃除してるだけだしな」

「そっか」

「でもなんか面白いんだよ便利部」

「なんだそれ⁉︎」

高木もだいぶ落ち着いて話すのが苦にはならなかった、入学当初は新しい場所と知らない人が居る状況で舞い上がっていたのだろう。

〜放課後〜。

ガチャッ。

「お疲れ様でーす、すみません遅れてホームルーム長引きました」

「お疲れ様」

部室には青い髪の綺麗な女性が居た。

「えっ、どなた?」

「あら、毎日会っているのにひどいわ、秋野麗華よ」

「あきの?」

「先輩の名前くらい覚えなさい、それともポテトって言った方がわかりやすい?」

「いもっ、ポテト先輩⁉︎」

「確かにこの姿で会うのは初めてだったかしら?」

「いや、それもそうなんですけど、いつもとは口調が違いますから」

「ジャガイモなのは家にいる時と部活中だけよ、普段からあぁじゃないわ」

「今日はなぜ部活中に人の姿で?」

「今日は土岡君はいつも通り推し活、三崎さんは用事で帰って、太一君は運動部に呼ばれておにぎり作ってるからしばらく戻らないの、だから他に人が来ても良いようにね」

「なるほど」

ポテト先輩は数秒俺の顔を見つめてから動き始めた。

「お茶飲むかしら?」

「あっはい、いただきます…ジャガイモにならなくて良いんですか?」

「ジャガイモになる所人に見られたくないし、あなたもジャガイモの私といると疲れるでしょ?」

「自覚あるんすね、ってか別人格ですか?」

「いいえあれは紛れもなく私よ、私の本心っていうか防衛本能っていうか」

「本心?」

「いいえ、なんでもないわ、はいお茶」

「ありがとうございます」

「享介君疲れてる?」

「えっ?」

「顔が暗いわ、何か悩みでもあるの?口外しないからなんでも言いなさい。」

一瞬悩んだが今のこの人には話しても良いような気がした。

「まぁ悩みというほどではないんですけど、何というか土岡先輩も太一先輩も三崎さんもあなたもですけど、何というか何を考えてるのか理解出来ないっていうか、なんか上手くやっていけるか不安なんです、いや別に嫌いとかではないんですけどね」

彼女は俺の吐露に対して迷いなく最初にこう言った。

「ありがとう」

「えっ?」

「それだけ真剣に考えてくれてたのね」

「あっ、えっと」

「良いのよゆっくりで、まぁ強いていうならだけどね、私も土岡君とは二年北倉君とは一年一緒にいて一緒に部活したり死にかけたりしたけど、二人のことなんて何もわかんないよ」

「そうなんですか?」

「うん、ていうか理解なんかする必要あるかしら?」

「そりゃお互い理解してた方が」

「良いんじゃない?わからなくても、わかり合おうとしてたら」

「…先輩」

「これからわかっていこうね、お互い」

「先輩、今日なんか普通なこと言ってますね」

いつものように嫌味皮肉を言おうと彼女の方を見ると目を離した隙に彼女は芋になっていた。

「いちゅもふつでねーみてぃないーかたはよさぬか‼︎」

本当にわかり合う気があるのかこいつは。

プルルルルルルル‼︎

部室にある電話がなる。

「何で部室に置き電? 電話線引いてんの?」

ポテト先輩が電話を取りスピーカーで俺にも聞こえるようにした。

「もちもち?」

「もしもしーポテトちゃん?今一人?」

「享介君もいまちゅ」

「あらそうなの、丁度いいわ海岸に妖怪出たから人目につく前にお願い、享介君も見学で連れてって」

「りょーかい」

「終わったら時間もそろそろだしそのまま帰っていいわよ」

「はーい」

ガチャ。

「享介君聞いたトーリだから、海行くよ!」

「どうやって?」

「バス」

「超常現象扱ってる割には普通に移動するんですね」

荷物をまとめてバスに乗った。

「先輩妖怪って見つけたらどうするんですか?」

「対話が可能で話し合いで解決できるならそれでいいし、そうじゃないなら退治する、退治できない場合は先生に報告して離れて監視」

「先輩芋の時でも普通に話せるんですか?」

「当たり前でしょ? 私を何だと思ってるの?」

「わかんないですよ、芋の当たり前は」

海の近くのバス停で降り砂浜まで歩いた。

「妖怪探しますか‼︎」

「先輩‼︎ どうやって?」

「海沿い歩く‼︎」

「原始的ぃ」

海沿いを歩き妖怪の捜索を開始した。

「先輩、妖怪見つけたらどうするんですか?」

「話し合って解決できるならそれでいい、できないなら退治する」

「退治って」

「享介君いま武器ないから話し合いできないなら私呼んで」

二手に分かれ妖怪の捜索をする、テトラポットを飛び進み海を覗き込むと水中から長い髪を持つ何かが飛び出した。

「うわぁなに‼︎」

海の中の何かと目が合いとっさに後ろにのけぞる。

「ポテトせんぱーい‼︎ こっち来てくださーい‼︎」

「あいよぉ‼︎」

ポテト先輩が駆けつけ海を覗き込んでくれる。

「あぁ人魚ちゃんじゃん」

「人魚?」

「うゅ、知りえぇデケレ安心しぃや」

「人魚と知り合いなんですか?」

「おぉヨォ」

「人魚ちゃんどしたぁ? いつもは海底で大人しくしてリュのにぃ」

人魚は必死に手を動かした。

「何で手話⁉︎」

「人魚ちゃん喋れないから」

「へぇ、でなんて言ってるんですか?」

「色々あるみたいだけど要するにちょーやばいってこてょ‼︎」

全然要せてない‼︎

「人魚ちゃんそれ伝えにきたの?」

人魚は首を縦に振り海底に戻っていった。

「妖怪退治も終わったし帰るか、享介君夜ご飯一緒に行く?奢るよ、奢っちゃうよ?」

「割り勘なら行きます」

「合点承知の助‼︎」

「何食べます?」

「ラーメンにする? ファミレスにする?それとも、ポ・テ・ト?」

「ラーメンで」

「ツレねぇな‼︎」

「ラーメン屋さんは人の形で入ってくださいね」

「アタボーよ」

二人でラーメン屋に入り注文を済ませる。

「で先輩人魚は何の用で?」

「海洋ゴミが多いから掃除してって」

「それだけ⁉︎」

「だけじゃないでしょ」

「たしかに、でもどうしたらいいんです?」

「今度部活のみんなでゴミ拾いしよっか」

「それだけでいいんですか?」

「だからだけじゃないでしょって」

「たしかに、っていうか妖怪ってあんまり人間に敵対的じゃないんですね」

「敵対的な奴もいるんだけどね、彼女は比較的友好的ね」

「そうなんですね、なんかもっとこうバチバチに戦闘したりするものなのかと」

「そういうこともあるけどね、あまり良いものじゃないわよ?」

「そう…ですよね」

「不服そうね」

「いやこうもっとワクワクするものかと」

「まぁこれからよ」

その週の土日にみんなでゴミ拾いした。

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便利な奴らの超日常 よっこ @yokkonanoda

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