第3話 オカリナとホワイトアウト
金曜日、学校にも慣れ、始めは鬱陶しかった高木も落ち着いたのか声量が抑えられ普通に昼食を共にする仲になった。
そして何にも関心を持たずに育った俺の思考を独占する便利部のお陰で週末も疲れを感じる事はなくすぐに放課後が来る。
便利部は依頼がない日は学校の敷地内を十個のエリアに区分けし二週間で一周するように掃除しているんだそうで、今日は芋が部室で留守番なので太一先輩と一年二人で掃除に向かった、一周目の金曜日は玄関と花壇の手入れだそうだ、雑巾とビニール袋、それに除菌スプレーを持って掃除にあたる。
中学までは掃除はしてるフリをしながらフラフラしていたが太一先輩やピュアピュアな三崎さんの前ではしっかりせざるを得ない、真面目に取り組んでいると気が付かないうちに腕がかなり疲れていて中学の部活を引退してから数ヶ月こんなにも体力が落ちているのかと思い知らされる。
「享介君いいね‼︎ 頑張ってるね‼︎」
「ありがとうございます」
「二人とも疲れたらいつでも水分補給してね‼︎」
「「はい!」」
優しすぎて逆にプレッシャーである、もはや恐怖すら覚える。
一通り掃除を終わらせ部室に戻る。
「ただいま戻りましたー」
「「ただいま戻りました」」
「オチュカレサーン」
その後は特に何もなく家に帰る。
学校が始まり最初の土日、課題やゲームをして時間を潰すがどうにも退屈だ、やはり便利部が自分の中に大きな影響を与えている平凡で景色の変わらない日常に飛び込んできたイレギュラー、まぁ強いて言うなら活動内容におかしな事がないのが少し残念だ。
〜月曜の放課後〜。
放課後すぐに三崎さんが教室に呼びにきた。
「あっ享介君、宮下先生から聞いてる?」
「聞いてるよ、大事な話があるってなんだろうね」
二人で部室に行く。
ガチャッ。
「お疲れ様でーす」
「今日先輩方来てないんですね」
確かに土岡先輩はともかく太一先輩や芋も来ていないようだ。
「二人とも座りなさい」
普段軽い空気感の宮下先生が鋭い声で発した言葉は二人に緊張を走らせた。
「事前に話した通り大事な話です」
「なんですか先生?」
「我々便利部は表向きには掃除を中心としてみんなのお願いを聞く何でも屋のような事をしています」
今度は何を言い出してくれるんだろう。
「表向きにはというと?」
「えぇ、私たち便利部は秘密裏に、妖怪・怪異・霊・魔法使い・超能力・異世界人などといった超常現象の対処にあたる組織の実働隊をしています、そしてあなた達にもそれに参加してほしい」
毎度毎度この部活は頭をホワイトアウトさせる、今度はなんだ超常現象? だが芋女のせいで否定しきれない自分がいる、黙り込んでいると三崎さんが先に言葉を発した。
「えっと、あのいきなりそんなこと言われると混乱でちょっとあのつまりですね」
「細かい説明が必要かと」
「そうそれ、享介君それ!」
「そうね、ごめんなさいリアクション見たくてあえて含みのある言い方しちゃった、でも今の発言は全て事実よ」
この人も意外と気分やで人をおちょくる所があるようだ。
「まず超常現象? とやらがなんなのかよくわからないので、実物を見ないことにはなんとも」
「享介君」
「なんでしょう?」
「冷静すぎてつまんないー!」
急に駄々っ子のようになる先生。
「えぇ〜! 妖怪なんて信じられませ〜ん! これで満足ですか?」
「あらやだあなたそんな子だったかしら?まぁいいわ実物ね、そこのロッカー開けてごらんなさい」
宮下先生がさし示したロッカーの取っ手に手をかける。
「安心しなさい開けた瞬間に呪われたりしないから」
開ける前に怖いこと言うんじゃない。
「三崎さんあけるよ」
「うん」
バンッ‼︎
古い金属製ロッカーが鈍い音を立てて開く。
目の前には果ての見えぬ雪景色が広がりどこか寂しさを感じさせる音楽が聞こえてきた。
「みっ、宮下先生これはっ⁉︎」
「それは次元の裂け目、実際に入ることだってできるわよ」
頭だけではなく視界まで真っ白にされてしまった。
「この音楽は一体どこから?」
「私です!」
「うわぁ‼︎」
オカリナを首にかけた二足歩行の山羊が飛び出した。
「山羊ぃっ‼︎」
「はい‼︎私矢木友和と言います雪原の世界の住人でございます」
「なんだか可愛いんですね」
三崎さんも結構呑気な人だ、目の前に獣人がいると言うのに。
「矢木さんありがとー、今回はこの子達に部活の説明するために呼んだだけだからもういいわよ〜」
「でわ私はこれで」
そういってオカリナを持った山羊はロッカーの戸を閉めた。
「これで信じてくれたかしら?」
「は、はい?」
「まだ頭混乱してますけど」
「まぁいいわこんな風に公に晒されていない事実で世が混乱に陥る前に対処するための組織なの」
「それはわかったんですけど、なぜ学校の部活がそんなことに?」
「そうね、面倒だしそこの説明も今しちゃうか、そもそも私がその組織の人間でこの辺りの区画を任されたわけ、でたまたまその真ん中ら辺にあったこの学校に教師として潜入し拠点としました、ここまでいいかしら?」
「全然良くないけど続けてください」
「オーケー、そして私は考えたわけここの生徒に超常現象の対処させてみようかなーと、ちょうどうちの組織も人員不足でねー、新人育成という建前で組織も容認してくれているの」
「えっとつまり、秘密の組織に仕事を任されたけどめんどくさいから未成年の民間人を巻き込んだと?」
「言い方は気になるけどその解釈で問題ないわ」
問題大有りである。
「えっと因みに命の危険とかは?」
「まぁ時々あるかしらね」
大問題である。
「えっと私たちが断っちゃったらどうするんでしょうか?」
確かにその通りだ、交渉段階にしては情報を開示しすぎだ。
「その場合はこの部活の記憶を消して適当な別の部活に入らせるから安心!」
「なるほど」
「で、どうかしら? まぁみんなが気にしないところでみんなの役に立ってるっていう意味では今までと本質は変わらないと思うのだけれど」
流石にそれは無理があると思う。
だが最初から返事は決まっている俺を退屈から抜け出させてくれる人たちの仕事ならきっと。
「僕やります!」
「えっ‼︎ 享介君ほんとにやるの?」
「因みに先生その仕事お給料は?」
「みんなはまだ私の監督下だから私のポケットマネーからのお小遣いだけど正式に組織に加入すれば、その辺のサラリーマンの四、五倍は楽に稼げるんじゃない?」
「やります‼︎」
「葉菜ちゃんはどうする?」
「えっと、安全な仕事からなら」
「はーいじゃあ二人ともよろしくね!詳しいことは実際に事が起こってから説明した方がわかりやすいと思うの、だから今日は帰っていいわよ!」
二人で部室を後にし校門まで歩く。
「ねぇ享介君」
「何?」
「ほっぺ引っ張ってくれる?」
ピュア‼︎
「いいの?」
「うん、思いっきりお願い」
三崎さんのほっぺをつまんで引っ張る、もちもちだぁ。
「ちゃんと痛いね、ほんとに夢じゃないんかな?」
「俺もわからん」
「享介君リアクション薄いから私がおかしいんかと思って胸バクバクだわぁ」
「ごめんごめん、俺も困惑はしまっくってるんだけどね」
「あっ私こっちだけど享介君は?」
「あぁ俺こっちだからまた明日ね」
「うんバイバイ」
わざわざ雪原に合わせた音楽奏でてた矢木さんお茶目だな。
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