ぼくらの色

壱ノ瀬和実

ぼくらの色

 赤は女の子の色。

 そう言われるのが気に食わなかった。

 黒いランドセルを選ぶことに不満があったわけではない。赤が良かったということもない。黒も好きだし、男が黒であることにも文句はなかった。

 ただ、女の子は赤、と決まっていることだけが納得いかなかったのだ。

 俺は赤が好きだった。ヒーローの色だからだ。

 ヒーローで赤と言えばリーダー。いつだって真ん中にいる。

 どうして女の子の色だなんて決められているんだろう。

 男子は総じて黒だったが、クラスには一人だけ、水色のランドセルを背負ってくる女の子がいた。

 俺はその子のランドセルが羨ましかった。常識に囚われなかったこと。自由に色を選べること。それを、誰に咎められることもないこと。

 黒に不満はなかった。黒色のヒーローだっているからだ。それに、他の男子も黒だから、どのみち最後には黒を選んだかもしれない……でも、赤でも良いんだよと言ってもらいたかった。赤は女の子の色じゃなく、男の子の色でもあるんだと言って欲しかった。

 決めつけないでくれ。俺の好きな色の役割を。俺の大好きなヒーローの色を――。



「じゃあ、パパが今ランドセル好きな色で良いよって言ったら、赤いのにするの?」

 六歳になったばかりの娘が、ランドセル売り場で目を輝かせながら言った。

「今かあ。今選ぶなら、青とか緑にするかな」

「赤じゃないの?」

「赤にしたかったってわけではないからね。それに、ヒーローは赤以外にもたくさんいるから」

 娘は首を傾げて、唇を尖らせた。

「美夏はランドセル何色にする?」

「んーとね。わたしはねー、赤がいいー」

「赤? 他にも色はたくさんあるよ?」

「赤が一番可愛いから赤が良い」

「そっか。そうだよな。選べるからって、赤意外にしなきゃいけないってことはないんだもんな。決めつけてたのは俺の方だった、ってことか」

 先入観も固定観念もなく、かつてより自由な今だからこそ純粋に好きを選べる。

 あの頃よりも、ずっとずっと良い。

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ぼくらの色 壱ノ瀬和実 @nagomi-jam

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