悪魔でホワイトカラー
碧居満月
緋村が白色のコートを着用している理由
ダークグレーの長髪を後ろに束ねた、優しそうな顔立ちをしていて、髪と同じ色のシャツの、襟元に結わいたグレーのネクタイと、白色のベストにパンツの上からコートを着用しているのが特徴だ。
「なぁ、あんた……」
「なんで、白いコートなんて、着てるんだ?」
「それはだね……」
綾瀬悠斗からの問いに、充分ためてから、緋村はやおら返答した。
「この、左腰に提げている剣に
流石は、大魔王シャルマンに仕える、幹部の魔人である。殺伐とした、残酷な悪魔らしい雰囲気を漂わせ、平然とそう告げた緋村に、対峙する久世理人、綾瀬悠斗の二人の顔に、緊張が走った。
町外れにある、喫茶『グレーテル』へと向かう道中、女子中学生の
美里にとって、緋村は強敵である。気付かれないよう、そろりとその場から離れようとした矢先だった。ふと気配を感じ取った緋村が振り向き、美里と視線を合わせたのは。
「まさか……こんなところで、見られてしまうとはね」
冷めた表情でそう呟いた緋村、徐に、コートの内ポケットからあるものを取り出す。それは鋭利な刃物で破けた、赤い水性絵の具で作成した血糊入りの袋だった。
『人の往来がない時間帯とは言え、ここで交戦すれば一般人の目に付きやすい。そこで……俺が持っているこいつらを使って、模擬対決をしてみないか? そうすれば、ここを往来する一般人の目には、俺達が芝居の練習をしているようにしか見えない筈だ』
『……いいぜ。あんたの言う通りにするよ』
唖然とする表情で相棒の久世理人と顔を見合わせた綾瀬悠斗がそう、緋村が提示した、三枚のビニール袋、水道水入りの、五百ミリリットルのペットボトル、赤い水性絵の具に不信感を抱きつつも素っ気なく返事をした。
そうして緋村は、持参したそれらで以て血糊を作成、血糊が入ったビニール袋を二人に手渡し、各々の武器を手に模擬対決をしたのだった。
あの時……俺が質問に答えたことはあくまで、あの二人をビビらすための狂言……本当は、どんな立場になろうと何色にも染まらない存在でいようと言う意思のもと、この白色のコートを着ているのが、その理由なんだ。
緋村は心の中でそう呟くと、まぶしいほどに光り輝く、美しい夕焼け空を仰ぎ見るのだった。
――おしまい――
悪魔でホワイトカラー 碧居満月 @BlueMoon1016
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