多様性は「虹」じゃない!
あがつま ゆい
会議室にて
「赤、青、黄色、緑、紫、白、黒、それらが共存することが多様性だって言ってるのに、何でそうなるんだ!?」
「え? だって虹色には赤も青も黄色も緑も紫だってあるんですよ?」
「そうじゃない! 虹一色は多様性じゃないんだよ!」
「え? だから虹色には全部の色が入ってるんですよ? 多様性でしょ?」
新しい企画が出たので会議室で話をしているが、まるでまとまらない。後輩は「多様性」の意味を全く持って理解していない。
「君、ちょっといいか? 多様性は大事じゃない、多様性には興味ない、何だったら多様性が死ぬほど嫌いな奴がいたとしても、そいつらを含めての多様性なんだ。
君にとっては多様性が何よりも大事らしいが、100人中100人全員が多様性は大事。っていう思想が既に多様性じゃないんだ。
それは『思想統制』であって多様性じゃないぞ」
見かねたのか上司が口を開く。が……
「え? だって多様性が嫌いな人って罰するしかないでしょ?」
「君……それではヒトラーやポル・ポトと同じ事だぞ」
「えぇ!? あの独裁者と一緒!? さすがにそれは名誉棄損に当てはまるんじゃないんですか!?」
上司相手でもこうだ。同じように「虹には全ての色が含まれる」「多様性が何よりも大事」という持論を決して崩そうとはしなかった。
結局、企画は没となった。
「……何でみんな分かってくれないんだよ」
後輩と一緒に飲みに誘ったら第一声はそれだった。
「自分は正しいから周りが間違ってる。ってわけか?」
「そうですよ。失礼かもしれないですけど、先輩も間違ってる……と、思います」
「……」
下手な人間ならその場で殴ってる所だが、先輩はそうしなかった。
「虹色ってのは他全部の色が入ってる、としても『1色』なんだ。少なくとも世間はそう受け止める。それに合わせろ。
世間という客がいるから俺たちの仕事は成り立つんだからな」
「……」
それから数ヶ月後、後輩は会社を辞めた。今どこで何をしているのかは、分からない。
多様性は「虹」じゃない! あがつま ゆい @agatuma-yui
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