Cパート

 私はスマホでイチゴヤドクガエルを検索したのだ。それはカンちゃんが描いていた緑色のカエルだ。画像で見るとそれは鮮やかな赤色をしていた。


(カンちゃんはテレビで見た赤いカエルが緑色に見えていた。先天性赤緑色覚異常かもしれない。だとすると店で見た犯人らしい男は赤い服でなく緑の服を着ていたのだ!)


 私が店に入る時にぶつかった男がそうだった。彼は緑色のジャケットを着ていた。その男の顔ならはっきり覚えている。


「金谷さん。これで犯人を捜せそうです」

「えっ?」


 茂三はわけが分からず、ポカンとしていた。私はすぐにその屋敷を出て捜査本部に戻った。



 私は新たな似顔絵を作成した。それを使って聞き込みをやり直した。すると北川大介という男が浮かんだ。彼は友人2人と古いアパートに潜んでいるらしい。

 私たちはすぐにそのアパートに向かった。北川の部屋は2階の一番端だ。倉田班長が指示を出して、藤田刑事と岡本刑事がアパートの裏に回ってそこで待機した。私は倉田班長とともに静かに階段を上がり、北川の部屋のドアの横についた。中から人のいる気配がする。私はドアをノックして呼んでみた。


「北川さん。いらっしゃいますか?」


 するとドアが開いた。


「なに?」


 顔を出したのは私が店で見た男だった。北川に間違いない。私は目で倉田班長に合図した。


「警察だ!」


 倉田班長はドアを大きく開けた。北川はあわてて部屋の中に逃げた。私は逃がすまいと追いかけて彼の手を捕らえて捻り上げた。


「いててて!」

「北川大介。強盗の容疑で逮捕します」


 私はその手に手錠をかけた。


 後の2人も部屋の中にいたが、警察と聞いてあわてて裏の窓から地面に飛び降りた。しかしそこには藤田刑事と岡本刑事が待ち構えていた。そこで2人とも捕まり手錠をかけられた。


 部屋の中から強盗に使ったバールや縄が見つかった。また机の上に広げられた地図には数件の家にバツ印が付けられていた。また強盗をやるつもりだったに違いない。これで犯罪を未然に防ぐことができた。

 さらに部屋の中からは盗まれた金品がすべて発見された。それらはまもなく被害者の元に戻るだろう。事件は解決した。


 ◇


 数日後、私はまた青空荘に来ていた。左手に大きな紙包みを抱えて。


「こんにちは! 日比野です」


 102号室をノックするとドアが開き、カンちゃんが出てきた。その後ろには東南アジア系の男性が立っていた。彼が遠くに仕事に行っていたカンちゃんの父親なのだろう。


「お姉さん! こんにちは」

「こんにちは。カンちゃんのおかげで悪い人を捕まえられたわ。ありがとう」

「本当! よかった!」

「それでね。カンちゃんにお礼のプレゼント!」


 私はもってきた紙包みを渡した。


「わあ、ありがとう!」


 カンちゃんはその紙包みを受け取ってすぐに開けた。中にはロボットのおもちゃが入っていた。


「わあ、すごい! お姉さん。ありがとう!」

「ううん。それは私からじゃないの。あの人から・・・」


 茂三が後ろから「やあ」と顔を出した。盗まれたお金が戻ってきたので、お礼をしようとカンちゃんにおもちゃを買ってきたのだ。

 するとカンちゃんの父親が驚いて口を開いた。


「オトウサン!」

「あ、あんただったのか。じゃあ、この子は・・・」


 茂三も驚いていた。カンちゃんの父親は茂三の娘である加奈の夫だったのだ。


「そうです。この子はあなたのお孫さんです」


 私は茂三にそう告げた。先天性赤緑色覚異常はX染色体劣性遺伝である。それは男の子に隔世遺伝することがある。つまり祖父にその異常があり、その子供が女の子の場合、異常は出ないがその保因者となり、そして孫が男の子であれば50%の割合でその異常が出る。私はその境遇から2人は祖父と孫ではないかと推測していた。それはピタリと当たったのだ。

 カンちゃんだけはポカンとしていた。だから私は言ってあげた。


「この人はね、カンちゃんの本当のおじいちゃんなのよ」

「本当!」


 カンちゃんはびっくりしていた。すると茂三が両腕を広げた。


「本当だとも。さあ、おいで」

「うん!」


 カンちゃんは茂三のそばに行って抱き上げられた。


「儂に孫がいるなんて・・・」


 茂三はカンちゃんを愛おしく抱きしめた。その目に涙がたまっていた。それを見てカンちゃんの父親が辛そうに言った。


「オトウサン。スイマセン。ハ・・・」

「知っている。儂のせいだ。結婚を許さなかったばかりに・・・」


 茂三はカンちゃんの父親に顔を向けた。


「儂は一人になったと思っていた。だがこうして孫を抱くことができた・・・」


 そして茂三は頭を下げた。


「儂を許してほしい。儂のためにあなたにもこの子にも苦労をかけてしまった・・・」

「イイエ、オトウサン。コウシテ アエタノ デスカラ。ワタシタチハ カゾク デス・・・」


 3人はしっかりと抱き合った。私はその姿を見て、邪魔にならないようにそっとその場を離れた。強盗事件と色覚異常が偶然にもこの家族を結んだ。私は彼らがこれから幸せに暮らしていくことを願ってやまなかった。

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赤いカエル 広之新 @hironosin

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