赤い紙、青い紙の調査

月這山中

 

 都内某所の市立学校のトイレ、そこでは怪異の噂がまことしやかにささやかれている。


「赤い紙が欲しいか? 青い紙が欲しいか?」


 来た。

 これこそが私が探していた怪異だ。

 赤と答えると全身から血が噴き出し真っ赤になって死に、青と答えると全身から血を抜き取られて青くなって死ぬという、トイレの怪異。

 その正体を見極めるのが私の目的だ。


「……」


 私は無言で様子を見た。


「こちらサンプルです」

「うおっ」


 上からカラーサンプルが降りて来た。

 思わずのけぞった。


「赤も青も200色あんねん」


 なぜ関西弁なのだろうか。

 そういえばこの怪異は京都のカイナゼという尻を撫でる妖怪にルーツがあるという噂もある。西の生まれなのかもしれない。

 私はカラーサンプルを見た。

 青はスカイブルー、アクアマリン、ターコイズ、インディゴ、コバルト、ネイビー……

 赤はファイヤーレッド、ルビーレッド、ワインレッド、カーマイン、ルージュ、カッパー……


「今ならオプションでちゃんちゃんこもお作りしますよ」


 類型伝承だ。赤いちゃんちゃんこ、青いちゃんちゃんこを着せるかと聞かれ答えるとやはり死ぬという。赤マント青マントというパターンもある。この申し出はそれらが同一の怪異による仕業だったと考えるべきだろうか。いや、早計かもしれない。


「……」


 私はやはり無言で様子を見た。


「もしかしてお客さん……『別の色』をお求めで?」


 これだ。


 伝承によれば赤と青以外を答えれば助かるという。黄色や紫、パターンはあるが私は注意深く、その言葉を発した。


「白い紙を頼む」


 怪異からの返事はない。


「白い紙を、ついでに白いちゃんちゃんこも頼む」


 好奇心に負けて頼んでしまった。

 怪異は、言葉を発した。


「後悔しないでくださいよ」





 翌日、トイレで成人男性の凍死遺体が発見された。

 その全身は真っ白に凍り付いていたという。

 怪異も日々進化しているのだ。私は尊い犠牲となった彼に敬意をしめし、遺体からカメラと無線機を回収した。



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