第11話

それからも、二人の夫との平穏な生活は続きましてよ。

夜はどちらかと肌を合わせて朝に別れ、身支度を整えた後、また二人と合流して広間へ向かい、霊水晶へ力を捧げます。

やはり、前とは違いますわね。

力はいつも体のすみずみまで、ええ、指の先まで満ち足りていますわ。

アイテルとテフォンが与えてくれた力が、少しでもオケアノスの護りとなるなら嬉しいですわね。

ただ、テフォンは時々、護衛官と連れだって塔を出るようになりましたの。

軍の施設へ行っているのですわ。テフォンは、王都の軍に、辺境の現状を伝えたがっておりますのよ。

アイテルが言いますには、テフォンは高名な将軍なので、皆が話を聞きたがっているとのことですわ。

それで私は、朝の務めが終わりますと、アイテルと二人で過ごすことが多くなっていますの。

庭園で花や空を眺め、執務室で星見の記録をまとめます。

私が星見の資料を見ている間、アイテルは私の後ろに、黙って立ってます。

昼間、アイテルとは必要なことしか話しません。これまでと同じですわね。

ですが、心の距離は、少し近くなった気がします。

アイテルの側にいると安心しますし、肌を触れあわせると、もっと安心しますのよ。


その日の夜は、アイテルが夫でした。

私は、寝台に座り、露台の外を眺めながら、アイテルの来訪を待ちます。

夜空には、やや雲が多く出ていましたが、風は心地良いものでした。

王都ではめったに雨は降りません。あまり雲も出ず、星見がしやすい空なのですわ。

やがて、清かな鈴の音が鳴ります。

白い短衣に、片肩を出したアイテルの姿が見え、私は立ち上がります。

アイテルは私を見たまま、足早に近づいてきますと、私をきつく抱きしめます。

もちろん、私もアイテルを抱きしめ返します。

ああ、アイテルと二人きりで会うまでの、なんと待ち遠しかったことでしょう。

それはアイテルもきっと同じですわね。

アイテルの温もりが全身に染みわたり、とても心地いいですわ。

香草のような香りも、ほっとします。

アイテルは言葉が多くありません。

けれど、彼の沈黙は好ましく感じます。ちっとも重苦しく感じません。

言葉はなくとも、こうして触れ合うだけで、通じ合える気がしますのよ。

しばらく、互いにきつく抱き締め合って体温を分かち合ったあと、私は顔を上げます。

あの森の池の水のように、澄んだ青い瞳が、じっと私を見据えていました。

アイテルが身をかがめるのを見て、私は目を閉じます。

やがて、熱い唇が、そっと重なってきました。

この口付けにも、すっかり慣れましてよ。ええ、好きな行為ですわ。

アイテルと舌を絡め合い、彼の熱と柔らかさを堪能するのは、気持ちがいいものです。

そうして存分に唇を交わしあいますと、互いに寝台へ移り、衣を脱ぎ捨て、また唇を重ね合います。

アイテルの手が肌をまさぐり、胸を包み込むと、声が漏れ出ます。

「もっと……聞かせてください、もっと」

耳元で、アイテルが低い声で囁きます。

アイテルが顔を降ろして、私の胸の先端を口に含みます。

そうされますと、強い快感が全身に走って、体の奥から蜜が滲んでくるのが自分でもわかりますのよ。

さらに最近、アイテルは、私の体に十分に触れますと、あの場所へ口付けてくるようになりました。

ゆっくりと押し倒され、太ももを大きな手で押さえられて足を開かされ、そこへ口付けられますのは、正直、とても恥ずかしいものです。

当然、何度か抗議しましてよ。

けれど、アイテルはやめてくれませんの。

ただ、恥ずかしいですけれど、気持ちがよいのも確かです。

何度も口付けされていますと、あまりの快感に、だんだん自分がわからなくなってきます。

やがてアイテルの唇が離れ、ほっと息をついた時でした。

「姫様」

アイテルは私を抱き起こしますと、手を、それに触れさせました。

「先ほど、俺がしたように、ここへ口付けてください」

私は、改めて、それを見ます。

初めて見たときは、なんと奇妙なものなのかと思いましたわ。

ですが、それは熱くて固く、滑らかで、私を心地良くしてくれ、霊力の源を注いでくれるものです。

今では、少しも厭う気持ちはございませんのよ。

「できますか?」

「できましてよ」

即答しますと、私はそれの先端へ口付けます。少し濡れていて、舐めると塩気がしました。

「姫様……もっと、深く」

頭に触れるアイテルの手が、行為を促します。もっと受け容れてほしいということなのでしょう。

さらに内へと受け容れますと、アイテルが切なげな吐息を漏らします。

「ああ、そう、です……姫様……ミティス様……」

初めて聞く、アイテルの声でした。

アイテルは明らかに快楽を得ております。

私と重なるときも、時折、切なげに吐息を漏らしますけれど、こんなにあからさまではありません。

この行為で、アイテルが悦びを得ているのは嬉しいですわね、とても。

私はアイテルが止めるまで、それを丹念に慈しみました。


目を覚ましますと、私はアイテルの腕に体を包まれていました。

あたりは紺色で、一筋、清かな金の光が降りています。満月が空に昇っているのでしょう。

アイテルは、隣で安らかな寝息を立てておりました。

最近のアイテルは、動きが少々激しく感じます。

強い快感は得られますが、同時に私はぐったりしてしまい、終わった後、いつも気を失うように寝てしまうのですわ。

月光に照らされたアイテルの寝顔は美しいものでした。

長いまつげが、滑らかな肌に影を作る様に、私はじっと見入ります。

アイテルが、私との行為で安息を得ているのは嬉しいものですわね。

しばらく、そうして眺めていますと、アイテルがゆっくりと目を開きます。

「ミティス……様?」

アイテルが手を伸ばし、私の髪をそっとなでます。

「月が高く昇ってますわ。夜更けでしてよ」

「そうですか。つい、寝入ってしまって」

「私もですわ」

「大丈夫ですか、お体は?」

アイテルはそう囁きますと、私を抱き寄せます。アイテルの温もりが心地よくて、思わず笑みが漏れます。

「平気でしてよ」

「すみません、何度も、加減できず。ミティス様に口でしていただいたので、つい」

「満足でして?」

「ええ、とても」

そう言うとアイテルは柔らかく笑います。

「うれしいですわ」

アイテルにぎゅっと抱きつきますと、アイテルが背を撫でてくれます。

「俺は、いつも気持ちいいですよ? こうしてミティス様と触れあっているだけで、満たされます。ミティス様は?」

「私も、満たされましてよ。あなたは温かくて、こうしていると安心しますの」

「ならよかった」

アイテルは私の額にそっと唇を落としますと、私の手を握ります。

「明日もございますし、寝ましょう」

「このまま?」

「このまま」

アイテルと私は笑い合い、手をつないだまま、目を閉じます。

アイテルが、ぎゅっと私の手を握ります。

こうしている間は、アイテルは私の一部ですわ。そして、私も彼の一部ですのよ。

それを良く感じられますから、閨を共にするのは、ええ、好ましい行為だと思いますわ。

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