第12話

そうしてアイテルと夜を過ごした翌日のことでした。

いつものように、朝、広間で霊水晶へ力を注ぎますと、あたりがまばゆい金色の光に包まれました。

しばらくしても金色の光は収まらず、女官達がおろおろと辺りを歩き回り、下から護衛官達が集まってきます。

私にはわかりました。要は、霊力が霊水晶から溢れたのですわ。

いかに人が集まろうと、この光は私の力によるものですから無駄ですわね。

ざわめきの中、二人の夫は平静なものでした。

「美しいな」

「ええ、本当に」

金色の光に照らされた二人の夫はどちらも美しく、誇らしく思います。

それにしても、力が溢れた霊水晶は、なんと美しいのでしょう。

南の空高く上がった満月そのものですわ。

月と同じく、今の霊水晶はまばゆく金色に輝いていて、けれど、見ていて目がくらむわけではございません。不思議ですわね。

きっとアイテルのおかげでしょう。昨夜は、アイテルと何度も番いましたから。

アイテルは素知らぬ顔で霊水晶を見上げておりますけれど、きっとわかっていると思いますわ。

けれど、その左手には金の指輪はありません。今宵の夫は、テフォンです。

「なんと……霊力が溢れるとは。姫様がこんなお力を」

女官長が驚いた顔で私に近づいてきて、霊水晶を見上げます。

「霊力が溢れると、何か問題がありまして?」

「問題はございませんが……せっかくのお力をこれ以上は保管できませんので……もったいのうございます」

テフォンが女官長の前に進み出て、霊水晶を見上げます。

「保管できる量を超えたのだから仕方がない。一度、力を使って防壁を張るべきだろう」

「しかし、防壁はこの間張ったばかりですが」

女官長の言葉に、テフォンは顔をほころばせます。

「かまわんさ。近隣に、我が国の力を示すいい機会だ。軍に知らせてくれ」

「かしこまりました」

女官長が一礼し、護衛官に命じます。

「……短い間に、防壁が二度も張られるなんて、前代未聞だこと」

女官長の呟きが聞こえましたが、もちろん無視して、私たちは部屋へ戻ります。

ちょうど日が高く昇り始めた頃合いで、部屋にはさんさんと日光が差し込んでおりました。

朝方は薄暗い灰色の石壁も、昼間はなんだか明るく見えますわね。

アイテルとテフォンは私の後ろで、おしゃべりを楽しんでいます。

「女官長は妙に不機嫌だったな?」

「あの方は、変化を厭いますから。姫様の母君様の代から塔におりますので」

「なるほど、新参者の俺が気に入らないというわけか」

「テフォン殿というよりは、テフォン殿が起こす変化が気に入らないのでしょう」

「アイテルは、平気か?」

「淀んだ沼よりは、少々強くとも風が吹く草地のほうがよいかと」

「はは、言う」

アイテルとテフォンの会話を聞きながら、私は露台に置かれた椅子に寝そべります。

二人の夫も椅子に腰掛けますと、すぐに女官がガラスの瓶とコップを持ってきます。

瓶の中身は、今日はレモンの果汁に蜂蜜と香草を入れて冷やしたものでした。私はこちらを好んで飲みますのよ。

露台からは、城壁と、石造りの建物、城壁の外に広がる丘や森がよく見えました。

「あの右手の森が、この間、行った森だ。わかるか?」

「ええ」

テフォンの言葉に頷きますと、私は王都の光景に見入ります。

前よりも、家や樹、城壁や遠くの森などがくっきりと鮮やかに見える気がしますわね。一度、馬で歩いたからでしょう。

「そろそろではないでしょうか」

防壁を見るのは二度目とはいえ、アイテルの声に、胸が高鳴ってまいります。

私はじっと、城壁の上を見つめます。

やがて、城壁の上部が一斉に淡い金色に輝き出しました。

燃えるものもございませんのに、炎のような光が浮かび上がるのは、なんとも不思議な光景ですわね。

私の力を元にしているだなんて、二度目でも、とても信じられませんわ。

塔の下からざわめきが聞こえます。

民たちも異変に気づいたのですわね。

城壁の上の金色の光は、すうっと空高く伸び、ひときわ鮮やかに輝き出しました。

あれこそが、私の霊力が作った、オケアノスを守る光の壁。巫の力の証。

なんと美しいのでしょう。

防壁は、しばらくまばゆい輝きをふりまいた後、前と同じく光の帯を残して、流れ星のようにふっと消えてしまいました。

アイテルとテフォンは無言でした。

地上のざわめきがまだ聞こえてきます。

「相変わらず、綺麗でしたわね」

そう言いますと、アイテルが防壁を見たまま答えます。

「ええ、とても美しかった。前よりも光が強くなった気がします」

「そうかしら?」

私の返事に、テフォンが笑いをこぼします。

「たしかに、先日よりも強い光に見えた。しかし、あれほどに美しいのだ、見た者は忘れられまい。近隣に話が広まるわけだな」

「前から日が浅いゆえ、話題にもなりますね」

「おおいにな。辺境にも必ず噂は広まる。しばらく他国は手を出しにくいだろう。防衛が、辺境にも張られるようなものだ」

二人の言葉を聞いて、しみじみと喜びが胸の内に広がっていきます。

私は、今、間違いなく国の役に立てております。

それは、二人の夫のおかげなのですわ。


その日の夜、いつものように身支度を整えますと、寝台に座り、今宵の夫であるテフォンを待ちます。

テフォンをこうして待つ間、いつも、胸が高まります。

早く、テフォンの顔を見たくてたまらなくなります。

香辛料のようなあの香りが、恋しくなります。

不思議ですわね。

そうしてテフォンを待ちわびておりますと、涼やかな鈴の音が聞こえました。

立ち上がりますと、テフォンが部屋へ入ってくるのが見えます。

昼間とは違う、右肩を露出させた薄手の衣は、褐色の肌によく映え、がっしりとした体を引き立てています。

テフォンは大股で、足早に近づいてきます。

「ミティス」

低い、艶っぽい声が、私の名を呼びます。

二人きりのとき、テフォンは私のことをこうして名前で呼ぶのですわ。

私の目の前で、テフォンが足を止めます。

黒い瞳が、熱っぽく私を見つめています。

きっと、私と同じことを思っていますわね。

黒い髪が揺れ、テフォンが身をかがめます。

目を閉じますと、熱いものが唇に触れ、舌が割り入ってきます。

私は夢中で、テフォンと唇を貪り合いました。

いつもこうですのよ。

テフォンとの口付けは、とても人に見せられないような、少々はしたない行為ですの。

触れあっているうちに音が出ますけれど、私は、嫌いではありません。

テフォンと深く繋がっていると実感できますから。

ああ、こうしておりますと、早く、体の奥でテフォンと触れ合いたくて、たまらなくなりますわね。

テフォンも同じなのでしょうか?

テフォンはゆっくりと唇を離しますと、私の肩から薄衣を落とし、胸に触れてきます。

私が、胸に触れられるのを好むと、よくわかっているのですわ。

大きく節くれ立った手で、優しく胸をなで回されるのはとても気持ちが良くて、声が止まらなくなります。

すると、テフォンは心得たように、身を屈め、胸の先端を口に含みます。

これをされると、強い快感で頭がぼうっとしてきます。自分でも驚くくらいに、声が甘く、大きくなるのですわ。

けれど、私の声に応じてテフォンの行為は強まっていきますから、これできっとよいのでしょう。

布越しに触れるそれが、雄々しく反り返っているのがわかります。

テフォンも早く私と繋がりたいと思っておりますのね。

テフォンが胸から口を離しますと、私は跪き、布越しに触れます。

ここを口に含みましたら、アイテルはとても喜んでくれました。

私はそれを衣から出しますと、そっと顔を近づけます。

「ミティス」

テフォンが戸惑ったような声で私の名を呼びますが、構いませんわ。

それを深く口へと受け容れますと、やっぱり、少し塩気がします。

そのまま、何度も深く食んでいきますと、テフォンが吐息を漏らします。

アイテルと同じですわね。

テフォンもきっと気持ちがよいのだと思いましてよ。

「ああ……いい。そうだ、もっと……深く」

テフォンの手が頭に触れて、押しつけてきます。

私は、促されるまま、夢中で食み続けます。

「アイテル……め」

テフォンはそうこぼしますと、私の頭を撫でます。

「苦しいかもしれんが、我慢しろよ?」

言うなり、テフォンが動き、口の奥へ押し入ってきました。

苦しくて息が詰まりそうになります。

堪えてはみましたが、何度かの往来ののち、たまらず私は顔を離しました。

「すまん、やりすぎだったな」

テフォンは笑うと、寝台に腰掛けます。

屈んで粗く息をついている私を、テフォンは抱え上げ、上へ導きます。

私は、テフォンを受け容れる準備がすっかりできていました。

私の唾液で濡れた、熱いものが触れてきますと、たまらなくなります。

「こんなに濡らして。気持ちいいか?」

テフォンが耳元で囁きます。

「いい……ですわ。気持ちいい。早く、なさって」

「だめだ、このまま感じていろ」

テフォンは私の腰を両手でつかむと、さらに刺激を与えてきます。

熱くて、滑らかなもので触れられるのはとても気持ちがよくて、私は思わずテフォンへすがりつきます。

テフォンはそうしてしばらく下から刺激を与え続けたのち、私をゆっくりと寝台へ押し倒しました。

続いて大きなものが入ってきて、震えそうなほどの快感が襲ってきます。

「ああ、いい。締まる」

テフォンはゆっくり何度か往来しますと、私の腿を押さえつけ、強く激しく動き出します。

こうして、体が壊れそうなほどに強く、何度も刺激されるうちに、我を忘れていきます。

番うまでは、世の中に、こんなに気持ちいいことがあると知りませんでした。

番うことは、子をなすためとは存じていますわ。けれど、その手段が、こんなにも快いものだなんて。

快楽こそが、番うことの目的になっていることは否めませんわね。

現に、こうして肌を合わせていますと、快感が、何もかもを押し流していきます。

ですが、今は、それでいいと思いますわ。

地上の何もかもをわすれて、ひたすら互いの体を感じる。誰しにも、そんな安息の一時があってもいいと思いますの。

そもそも、今は休息のための刻限。

陽は眠り、星々が瞬く、安息の刻限なのですから。

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