第7話

本来の巫の務めにも慣れ、十七歳になる日が迫ってきた、ある日のことです。

二人の父が、再び塔を訪れました。

前と同じく、二人の父は何の言伝もなく、朝早くから大勢で押しかけ、堂々と広間に居座ります。

「姫が贈り物をことごとく断るもので、御幸なさざるを得ず」

宰相殿はそう言いますけれど、二人の父がわざわざ来た理由なら、わかっておりますことよ。

ひとつは、私が務めを果たす様を、我が目で見たいということでしょう。

ええ、もちろん、その日もいつもと少しも変わらず、霊水晶に力を注ぎましたわ。

黄金に光る霊水晶を見上げて、二人の父は上機嫌で笑います。

「先代と同じだな」

「全く。安泰ですな」

巫としての働きには、満足いただけたようですわね。

「それで、用件はなんですの?」

ふたつめの理由を尋ねると、陛下は笑顔を浮かべられたまま、私を見下ろされます。

つがいだ。じきに十七だろう。相手を見繕ってやった」

思ったとおりですわね。

どうせ、一人は愚鈍と名高い腹違いの兄、ノトス王子でしょう。

ですが、世の中には抜け道がございます。

そして、今の私には力がありますの。

私はもう二度と、誰の言いなりにもなりませんことよ。

「それなら、心得ておりますわ」

私は陛下を見返します。

私と同じ黄金色の髪に、緑の瞳。

ああ、こんな殿方が私の父だなんて、いまいましいですわね。

「お相手のご選定は光栄に存じます。ですが、番う相手は、私が選びますわ」

私の言葉に、二人の父は互いに顔を見合わせます。

「ご心配なく。私の霊力を増してくれる相手でしてよ。力が目覚めるのが遅うございましたから、念のため、相性を大事にしたいのですわ」

もちろん嘘ですわ。

ですが知らぬ相手よりは、信が置ける相手と番うほうが、まだ、霊力も増しそうでしょう?

「姫には、心当たりがおありで?」

宰相殿がさぐるように目を細めます。

「もちろんですわ」

私は振り向いて、控える護衛官二人を見ます。

「アイテルとテフォン。私の頼もしい護衛官ですわ。彼らを私の夫とします」

二人が唖然とした顔になります。

けれど、それも一瞬でした。

「光栄だ。我が生涯を懸けて、姫を守ろう」

テフォンが破顔して、その場に跪きます。

「畏れ多いことですが」

アイテルは言葉を切ると、続いてその場に跪きます。

「ぜひに。姫様に選ばれるなど、身に余る光栄でございます。これからも、ずっと姫様のお側に」

アイテルの声は少し震えておりました。

前もって相談もせず、勝手なことをしたのは申し訳なく思います。

ですが、番と交わり、子を成すのが、これからの私の使命。

ならば、その相手は、せめて身を預けるに足る者にしたいのです。

アイテルとテフォンは誠実で、忠実です。

私を助けてもくれました。

次は、私が、彼らに何か報いることができればとも思うのですわ。

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