第3話

翌朝、私の願いも虚しく、雛鳥は籠の中で冷たくなっておりました。

テフォンの予言どおりですわね。

いつもそうですのよ。

私が期待したことや、望んだことは、いつだって叶いませんの。

雛鳥は、水も餌も、決して摂ろうとしませんでした。

テフォンが言うように、それが小鳥の習性なのかもしれません。

けど、私は、この子は生きることに疲れて旅だったのだと、感じましてよ。

この子は親鳥に捨てられたのだと、テフォンは言いました。

他者に不要と思われるのは、悲しく、つらいことですわ。

何も言われずとも、それこそ毎日毎秒、私には、はっきりと感じ取れますのよ。

お前なんていらない、お前なんて生まれてこなければよかったと。

小鳥とて同じだと思いますの。

だって、この子の親は、この子を弱いと判断して捨てたのですから。

穏やかな旅立ちだったことだけが、救いでしたわね。

せめて、きれいな花の根元に埋めてやりたくて、夜着のまま、籠を持って部屋を出ます。

もちろん女官には咎められましたけど、いつもと同じく無視してやりましたわ。女官には任せたくないことでしたから。

扉を開けて、身を滑らせて外に出ますと、なんと、アイテルとテフォンが身支度を整え、部屋の前に控えておりました。

二人は昼の護衛官です。夜から明け方にかけての見張りは別の者が担当しますのに、物好きなことですわね。

「お供いたします」

「行こう」

雛がどうなったか、言わずともわかっているのでしょう。二人は踵を返して歩き出します。

私も籠を胸に抱えて、後を追います。

歩くうちに眠気が増し、あくびが出てまいります。

昨夜はこの子を見守っていたせいで、ちっとも眠れませんでしたの。

ですが、昨夜に限らず、いつもこんな感じなのですわ。

夜に眠れず、昼に少しウトウト。

常に眠気はありますのに、いざ眠ろうとしますと、眠れませんの。年々、ひどくなっておりますのよ。

広間では、昨日と同じく、霊水晶が青白い光を放っていました。

この後の巫の務めも、きっと上手くいかないだろうと思いますと、憂鬱ですわね。

庭園は、昨日と変わらず、花々が揺れ、小鳥が楽しげに囀っていました。空も青く澄み渡っています。

雛鳥が一羽消えたところで、世界は何も変わりませんことね。

力のない巫が一人消えても、きっと同じことでしょう。

テフォンとアイテルは、雛鳥を見つけた場所へとまっすぐに歩いてゆきます。

囀っている小鳥たちの中に、雛鳥の親鳥はいるのでしょうか。

「姫様、籠を」

足を止めて振り向いたアイテルに、私は籠を手渡します。

テフォンが腰に下げた剣を外すと、鞘に包まれた剣先で地面を掘りはじめます。

やがて小さな穴ができると、アイテルが屈み込み、籠から雛鳥を取り上げて、そっと置きます。

テフォンも剣を腰に戻して隣に屈み込むと、手で土をかけていきます。

私は、後ろで、二人が雛鳥を埋葬するのを見守ります。

親鳥から捨てられた雛鳥は、テフォンの予告どおり死にました。

その身は朽ちて土になり、いずれは花となって、穏やかに風に揺られることでしょう。


それから部屋へ戻り、女官たちの小言を聞きながら身支度を整えてもらい、オレンジの果汁と小さなパンの朝食を済ませて、また広間へ向かいます。

ええ、朝の務めのためですわ。

やることは昨日と同じです。霊水晶へ祈りを捧げるのですわ。

ただ、今日は少し、熱心さが足りなかったかもしれません。

案の定、霊水晶は、今日も私の祈りには応えませんでした。

熱心に祈ろうと、適当に祈ろうと、何をいくらどうしても、霊水晶は私に応えることはないのでしょう。

お母さまと同じですわ。霊水晶も、同じように、出来損ないの巫を見捨てたのですわね。

テフォンは今朝は何も言いませんでしたが、女官達の嘲りは同じでした。

私はもうじき十七になりますから、残された時間はきっと半分を過ぎていることでしょう。

あと半分、この毎日を続けると思うと、絶望しかありませんわね。

ああ、早く、私にも旅立つ機会が訪れますよう。

庭園のあの場所は、今も変わらずにあります。

ならば、せめて、この願いくらいは、叶えられてもよいのではなくて?

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