第3話 「僕」と「彼女」
まず、この男が夜に囚われる前の話をしよう。
この男、
趣味はピアノとたまーに行く釣りぐらい。
母はピアノの先生で、その影響からか幼少期からずっと習っていた。
かなりの腕前でその腕をそのままにしておくのはもったいない、と母の実家の古い家をリフォームして休日にピアノを聴ける喫茶店を営んでいる。
性格は今でこそ大人しく丁寧な好青年だが、昔はそれなりにやんちゃしてたらしい。
それでもこの会社に入れたのは、心根は真っ直ぐで真面目だったからなのだろう。
後輩からは慕われ、上司からは任されることも多くなってきた、そんなある日。
この会社に新入社員が入ってくることになった。
まぁ毎年のことだ。
特別なにかあったわけでもない、が。
1人の女性が泉の目に止まった。
(あれは……)
「はじめまして。この度、営業1課に配属されることとなりました。
少し緊張しているのか、頬がピンクに染まり早口になっている彼女は泉を見てにっこりと微笑んだ。
(っ……)
あまりの可愛さに泉は胸を打たれていた。
「んーじゃあ小鳥遊さんは泉くんの下について貰おうかな。」
部長が言うと彼女は泉の机の近くまでやって来た。
「よろしくお願いします!」
元気よくお辞儀をする彼女とは反対におどおどしながら挨拶をする泉。
「あ、よろしくお願いします…」
(まじか……)
「彼はまだ若いのに優秀なんだよ〜。それじゃ、泉くんよろしくね!」
そう言い部長は去っていく。
残された2人はしばし見つめあっていた。
「…はじめまして、ではないですよね。」
彼女はそう言う。
「そう、ですね。前、お店に来てくださった方ですよね……?」
「そうです。まさか同じ会社だとは思いませんでした。」
そう。以前彼女は泉の営む喫茶店に客として来たことがある。
でもその時はお互いどこの誰かなんて分かるはずもなく、ただただ「客」と「店主」の関係でしかなかった。
だからこれが実質、2人の初めての出会いだった。
ノクターンーNocturneー 小花衣 秋雨 @syu_19
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