【短編/1話完結】街の色、人の色、気持ちの色

茉莉多 真遊人

本編

 そこには色があった。すべてのものが当たり前のようにキラキラしていて、さまざまな色が散りばめられているかのように存在していた。これからワクワクするようなことがきっとたくさんあるのだろうと胸を高鳴らせている。歩く人々の顔を見ると、幸せに満ち溢れているように見える。


 そう、夢のような場所だった。


「次は、○○」


 電車のアナウンスが聞こえてきて、よく知る駅の名前だったため、私の意識は急に覚醒した。疲れ果てていた身体は1時間弱の仮眠で多少まともに動くようになり、なんとか力の入る腕は早くもくたくたになっている買ったばかりのカバンを持ち上げた。


 駅前はまだ煌びやかな感じがしている。塾帰りの中学生だか高校生だかがたむろしているし、顔の赤い大人たちがふらふらっと歩いているし、突っ立っていたお兄さんやお姉さんが不意に誰かに近付いて声を掛けている。


 だが、どの人も幸せに満ち溢れているようには見えなかった。キラキラと眩いばかりの姿をしているのは街の光ばかりで、その中で動く人々は色褪せたような雰囲気か、もしくは、街の光の邪魔にならないようにしている黒子のような雰囲気だった。


 そんなことを考えているうちにバスが駅に向かう客を下ろしてから、行先表示を変えて目の前をぐるりと回って来たので駆け足でバス停まで向かう。


 乗る人もまばらでゆっくりとゆったりと座席に座ることができ、窓の外を見ているとあっという間に、少し寂し気だが温かみもある暗さを持つ住宅街の通りを進んでいた。


 ふと、そこで気付く、窓に映る自分の顔。


 幸せに満ち溢れているわけもない顔。


 夢から醒めたような顔。


 色褪せたような顔。


 人は自分が見たいようにしか見ることができない、とどこかで聞いたことがある。何も知らず、何もわからず、何も考えておらず、都会というものに心を躍らせていたあの頃は、都会に住む人たちさえも明るく眩しく見えていたのだ。


 そう、夢のような場所はただの夢だった。

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