カラーフィルターの独占

ゴットー・ノベタン

太陽と遮光板

 私は、彼女のためのカラーフィルターだ。


 世間が求める彼女は白い光。穏やかで美しく、何色にも染まらない。

 でも私は知っている。白い光の中には、あらゆる色が含まれる事を。


 だから彼女の余分な光は、私が全て受け止める。


 彼女が緑色を強くすれば、私はマゼンタのフィルターを重ね、

 彼女が青色を強くすれば、私はイエローのフィルターを重ね、

 彼女が赤色を強くすれば、私はシアンのフィルターを重ねる。


 新しい姿、新しい表情、新しい仕草を見せるたび。彼女の光はより強くなり、様々に色彩を変えてゆく。

 それは、フィルターの内側でしか見られない、ありのままの彼女。


 寝起きに大きくあくびをする、緩み切った姿の彼女。

 一緒にホラー映画を見た時の、怯えた表情の彼女。

 気に喰わない事があった際の、怒った仕草の彼女。


 無数の光をより合わせ、太陽の様な強さで輝く彼女。

 他の全てが眩むほどの光。その本当の色は、私だけが知っている。




 彼女は、私のためのカラーフィルターだ。


 世間が求める私は白い光。穏やかで美しく、何色にも染まらない。

 でも彼女は知っている。白い光の中には、あらゆる色が含まれる事を。


 だから彼女は、私の余分な光を受け止める。


 私が緑色を強くすれば、彼女はマゼンタのフィルターを重ね、

 私が青色を強くすれば、彼女はイエローのフィルターを重ね、

 私が赤色を強くすれば、彼女はシアンのフィルターを重ねる。


 新しい姿、新しい表情、新しい仕草を見せるたび。彼女のフィルターは幾重にも重なり、徐々に色合いを濃くしてゆく。

 それは、私の光を見る人たちは気にも留めない、私のための彼女の顔。


 寝起きにあくびをしていたら、コーヒーを入れてくれる彼女。

 ホラー映画に怯えていたら、震えながら手を取ってくれる彼女。

 気に喰わない事があって荒れていたら、優しく宥めてくれる彼女。


 私にしか見通せないほど、遮光板の様に濃くなった彼女のフィルター。

 その独占的な黒の厚さは、私だけが知っている。

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