第10話

ホーンドラゴンの鉤爪を躱し、受け流す。

とても重く、鋭い一撃だ。上手くしないと死ぬ。

それに、魔力を無理やり早く動かしている今の状態は危険だ。体が魔力についていけず、このまま動き続けたら死ぬ。

だから短期決戦で勝つしかない。


「シッ!」

「ガァ!」


攻撃がぶつかり、ほんの僅かな拮抗の末、俺が押し勝つ。少し離れたホーンドラゴンと距離を詰め、骨の繋ぎ目の部分を狙う。

後ろ足の右足首に向けて放った攻撃は見事その関節を砕き、ホーンドラゴンを他に伏せさせることに成功した。

続けて左足首も砕く。

これでこいつはもう立つことはできない。


「がはっ」


口から血が出てきた。

後30秒もしたら死ぬな。

それまでに決める!


「おらっ!」


ホーンドラゴンの首に向けて蹴りと拳を連続で打ち込む。

徐々に日々が入り、亀裂が走っていく。

あと少し、あと少しだ。

俺の腕と足から肉と骨が砕ける音がする。

視界が赤に染まる。

こいつが先に死ぬか、俺が先に死ぬか。

そんなの、決まってるよな!!


「ガァア゛ア゛ア゛」


ホーンドラゴンの首が砕け、地に落ちる。

体も動きをやめ、完全に死んでいる。


「勝った………勝ったぞーー!!」


叫びながら俺も倒れた。

正直、もう動けそうにない。

無理をした体は骨は砕け血管は破裂し肉も裂けている。動かせるような状態じゃない。

さて、動く方法を考えるのもいいが、もう少しこの勝利の余韻に浸っていたい。


「メシア、よくやった。褒めてやるぞ」

「へへっ、これくらいどうってことないぜ」

「そう言うのならもっと安全に戦ってくださいまし。ハラハラして見てられませんでしたわ」

「無茶しなきゃ勝てなかったんだから仕方ないだろ」

「それはそうですが……」


ははっ、リエラは優しいな。

ヴァンやアークも見習って欲しい。


「さて、メシアもこの調子じゃし、戻るとするかの」

「ヴァンさん達は大丈夫でしょうか」

「ヴァンがいんだろ? 心配するだけ無駄だろ」

「あやつが負ける姿など想像できんからな」


リエラに肩を貸してもらい、森の出口に向けて進んでいく。

そういやこの森に来たのは特に弱い俺とアークを鍛える為とか言ってたな。てことはリエラって俺とアークよりも強いのか?

もしそうなら鍛錬とか付けてくんないかな。

たしか昔は魔術と体術でぼこぼこにされたからな。どれだけ強くなったんだろうか。

後で絶対に聞こう。


「なぁ先生」

「なんじゃ?」

「先生ってどれくらい強いんだ?」

「いきなりじゃのぉ」

「気になったからな」


正直、あまり強いようには見えない。

主に見た目のせいだけど。


「お主今儂の見た目を馬鹿にしたじゃろ」

「してねぇよ」

「これ目を逸らすでない。儂はこう見えて特級冒険者じゃぞ?」

「は!? 特級!?」


マジで!?


「毎回これを言ったら驚かれるんじゃよなぁ」

「そりゃ見た目のせ」

「なんか言ったか?」


これ以上はなにも言わないほうが良さそうだな。

さて、この後どうするか。

多分治療を受けてしばらく安静にしないといけないんだろうが、それはだるいよな。回復系の魔術とか魔法を使える奴がいればいいんだが。


「さて、入り口に着いたはいいが、ヴァン達はまだかの?」


ヴァンがいるから、万が一のことはないと思うけど少し遅いな。道にでも迷ったか?

森の方を見て待っていると、俺達の近くに雷が落ちた。

光が走り、音が落ちる。土煙から姿を現したのは、気絶したアークを抱えたヴァンだった。


「遅くなったな」

「わしらも今来たところじゃ。何かあったのか?」

「こいつを魔物と戦わせていた。傷はポーションで直してある。じきに目を覚ますだろう」

「それはそれは……。貴重なポーションだったのではないか?」

「もう使わない予定だったものだ。捨てる手間が省けた」

「まぁ特級にもなれば基本傷を負うことなどないからの。じゃが何本かは持っておけよ?」

「いらぬ心配だ」


ポーションあるなら俺にも分けて欲しいんだが。

それはそれとして、一体どんな戦いだったんだ?

アースが気絶するほどなんて、よほど強い相手だったんだろう。

俺も戦いたいな。


「怪我が治ってからですわよ?」

「頭の中を読むのはやめてくれ」


なんでわかったんだよほんと。

魔法かなんかか?

人の心を読む魔法なんて強力すぎるんだが……。


「愛ですわよ?」

「こわっ。てか愛ってなに!?」

「うふふ……」


うわぁ、見ないうちにめっちゃ怖くなったなこいつ。

なんというか、腹黒くなってないか?

戦ったら面白そうだ。


「これ、イチャイチャするでない」

「あら、嫉妬ですの?」

「違うわ! さっさと怪我を直して帰るぞ!」


そう言って先生が杖を翳すと、俺の傷が瞬く間に消えていった。

なんだこれ。

傷が消えた?

回復系の魔術や魔法は光に包まれて癒えていくんだが、今のは違う。傷自体が完全に消えた。


「なんだ、これ」

「儂の魔法じゃ。効果は各々で考察するのじゃな。戦闘の中で相手の手札を見破るのは必須じゃ。細かい手がかりから見破り、対策せねばならん。それが生死を分けるのじゃ」


俺みたいな魔法も魔術も使えないやつには必須だな。先生の魔法も気になるが、一番気になるのはやっぱヴァンの魔法だな。

噂じゃ見たやつは必ず死ぬとか言われてるが、どうなんだ?

また戦った時に使わせれるかな。

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異世界に転生したが、私は主人公なんかじゃない 呂色黒羽 @scarlet910

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