第9話
「はあっ!」
「ガァッ!」
竜と俺の攻撃がぶつかり合う。
周りの木々が吹き飛び、大地が隆起する肌の衝撃が走る。
魔剣により攻撃力が上がった俺は、なんとか竜と戦えていた。
この魔剣の効果は、魔術の強化だ。
そのおかげで俺の炎の魔術は格段に強化された。
竜と渡り合えるほどに。
だが、それでもまだ互角。こいつを殺すには至らない。
それに、そろそろ魔力が尽きる。魔剣の創造には想定よりも余程魔力が必要だったからだ。このまま耐久戦に持ち込まれたら負ける。
勝つためには、俺の最大出力の一撃で倒すしかない。
「はっ!」
竜の噛みつきを避け、一度距離をとる。
一度深く息を吐き、剣にありったけの魔力を注いでいく。
竜もそれを見て理解したのか、ブレスの構えを取った。
強者故の驕りか、それとも竜としての矜持か。どちらにせよ、俺に合わせてくれたのには感謝しかない。
「いくぞ!」
「ガァアーーーー!!!!」
魔剣に込めた魔力を解放し、炎の魔術を放つ。それは竜のブレスとぶつかり合い、拮抗した。
「ぐぅうう………!!」
「ガァア……!」
どちらも譲る気はない。
勝たねば死ぬのだから、勝つ気しかない。
そうだ、勝つんだ!
「ぅ、ぉおおおお!!」
「ガァア!?」
魔力を込めろ!後のことなんて考えるな!
今この瞬間、勝つ事だけに意識を避け!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
「ガァアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
俺の炎と竜のブレスが一段と勢いを増す。
だが徐々に、俺の炎が竜のブレスを呑み込んでいく。
「勝つのは、俺だぁあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
炎がさらに勢いを増し、竜を完全に呑み込む。肉を焼き骨を灰にするその炎は、竜すらも焼き殺した。
「はぁ、はぁ……ゴホッ、ゴハッ」
口から大量の血が流れ、膝をつく。意識が朦朧としている。竜との死闘で体はズタボロ。立っているのですら、もうやっとだ。
魔力もすっからかん。これ以上の戦闘は無理だな。
「ふむ……身体強化の練度はまだ荒く、魔術の威力も魔剣を使わなければ物足りない。だがまぁ、合格だ。貴様はまだ伸びる。慢心しないように」
「わかってる」
勝者に勝てるってわかったんだ。鍛えない理由がない。
まずは俺をコケにしてくれたメシアを倒して、次に兄と弟を越えてやる。そして最終的には……この英雄を越える。
「いつかお前も越えてやるからな、英雄」
「………やめておいた方がいい」
俺の宣言を聞いた英雄は、いつも通りの感情が抜け落ちた顔で、そう言った。
英雄が何を言いたいのか俺にはわからない。ただ、全てに諦めているかのような声が、嫌に耳に残った。
◇
大きな音が響き、森が震えた。
「………何だ?」
「ふむ……なるほどのぉ」
「先生、何かわかったんですの?」
「いやなに、子供が一歩大人に近付いただけじゃ」
「?」
聞いてもよくわからなかった。
俺達は今、目標である魔の森の中部に到着していた。ここからは一級の魔物が出て来るらしいので気を付けなければならない。
「先ほども言ったが、これから来る魔物と戦うのはメシアだけじゃ。儂とリエラはよっぽどの事がなければ手出しはせん。良いな?」
「あぁ。望むところだ」
今日俺は、限界の壁を壊す。
そのためには格上との一対一の方がいい。リエラもそれをわかっているのか何も言わなかった。
ただめちゃくちゃ心配そうに見つめられている。
「大丈夫だリエラ。俺は死なない」
「……別に、心配なんてしてませんわ」
ははっ、素直じゃないな。
まぁこういう子を守るためにも強くならなきゃいけないんだが。
「ゴァーーーー!!」
おっ、さっそく来やがったか。
馬鹿でかい魔物が上空に姿を現した。
体に肉はなく、骨だけの魔物。奴の名はボーンドラゴン。一級の強さを持つとされる竜のアンデッドだ。
「よっと」
軽い掛け声と共に、魔力操作の応用で宙に浮かぶ。空で戦うのを想定しててよかったな。
「っりゃ!」
「ガァ!?」
魔力操作による加速でホーンドラゴンに一気に迫り、拳を叩きつけてやる。
そのままホーンドラゴンは地面に落下した。
これじゃ浮かんだ意味がねぇな。
まぁいいか、地面の方が戦いやすいし。
「ぐるるるる……」
「来いよ、デカブツ」
戦いの火蓋が、切って落とされた。
最初に仕掛けたのは俺だ。魔力操作で身体能力を上げ、加速し拳を振るう。
「シッ」
「ガァッ」
凄まじい反応速度でホーンドラゴンは俺の拳に合わせて攻撃を放ってきた。
お互いの攻撃が衝突し、余力で負けている俺が吹き飛ばされる。
なんとか空中で静止するも、ドラゴンの爪が俺に迫る。
「ちっ」
避けようとするが咄嗟のことで完全には避けきれず、腹が裂かれる。
だがあまり深い傷じゃない。
今は目の前の戦闘だけに集中だ。
「ガァーー!」
右、左と振るわれる爪を避ける。
先ほどは相手のペースに呑まれ避けられなかったが、冷静に対処すれば十分戦える。
とはいえ、圧倒的に火力不足だ。
俺が殴って吹き飛ばせても、ドラゴンにダメージを与えられてはいない。
攻撃が物理攻撃だけなのが救いだが、同時に物理攻撃への耐性が高いのが難点だ。
どれだけ殴っても大したダメージになりやしない。
魔術とか使えたらまた違うんだろうが、無い物ねだりをしても仕方がない。
今ある手札で火力を上げるだけだ。
一度大きな攻撃を加え、距離を取る。ドラゴンも少しは警戒したのか、こちらを観察している。
今がチャンスだ。
「スゥ————」
深く呼吸をし、体内の魔力の流れを加速する。
今できる最高を、超える。
「メシア、待ってくださいまし! それ以上身体強化を高まると貴方の体が保ちません!」
リエラはそう言うが、体を壊すのを躊躇って死ぬんなら、最後まで出し切って死ぬ方が何倍もいい。
体の血管が破裂して血が流れるが、どうでもいい。この一瞬に、命を賭けるだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます