あなたの赤色、どんな味?

ムタムッタ

幼馴染みはどんな味?



 放課後。教室でだらだらしていると、幼馴染みで吸血鬼のオリカはよく俺に聞いてくる。曰く、暇だからとか。




 何を聞くかって言えば、これと言ってすごい難題とかではなく、流行りの曲の感想とか、話題のドラマのこととか、B級のサメ映画のこととか。


 高校生らしいと言えばらしいのだが、必ず共有しようと聞いてくるのだ。別に嫌いではないが。たまーに変なことを聞いてくるのでリアクションに困る。コンビニで買ったイチゴのゼリーを開けたところを見つめながら、オリカは訪ねてきた。


「は……? 白色が何味か?」

「うん」


 赤い瞳は俯き加減、白みの強い銀髪を弄りながらオリカは短く返してきた。


「だって私、配給の血液しか飲んだことないもん」

「もんって……まぁ吸血鬼だしなぁ」

「だーかーらー、ハルにとって白色って何味?」


 急に言われても困る。

 白と言えば豆腐……豆腐は……無味? いや、大豆の味はあるけど。

 白米、牛乳、ヨーグルト、大根、エトセトラ……


「色々あるけど、淡泊な感じ」

「ふ~ん……じゃあ、黄色は?」


 レモンが直球で脳内に飛んでくる。

 が、対抗でバナナも浮かぶ。あぁ、卵とかとうもろこしもあったな。でも、やっぱり……


「酸味……すっぱいイメージかな?」

「すっぱいって……わかんないよ」

「なんつーのかな、口がキュってなる」

「緑」


 緑は簡単だ、緑黄色野菜……黄は抜いて、緑色の野菜系だな。オレ、ピーマン、ニガテ。


「苦い。お前も吸血の抑制剤は飲んでるから苦いはわかるだろ?」

「あのうぇっって感じ?」


 さすがに野菜で嗚咽はしないけど。

 吸血鬼との感性って結構違うんだな。問答が楽しくなってきたのか、オリカは続ける。


「じゃー、青!」

「青色の食いもんなんてねーよ」

「え~去年海の家でかき氷食べてたでしょー⁉」


 あたしも食べたかった~と頬を膨らませた。

 あぁ、ブルーハワイ味のことか。あれは単なる香料の違いだろうに。他には着色されたサイダーとかあったな。


「青は、爽やかって感じかなぁ」

「それ味じゃないでしょ」

「んな意識して食べないからな」

「なら黒は? あれも苦いんじゃない?」

「黒ぉ? ん~海苔、ごま、ひじき、黒豆……甘いのもあればしょっぱいのもあるかなぁ」

「人間も味覚が多くて大変ねぇ」


 そういえば、俺が食べる所をオリカはよく見つめてくるな。

 今も掬ったゼリーをまじまじと見つめている。


「なら、さ……吸血鬼にとって赤い色ってどんな味なんだ?」

「血のこと?」

「わざわざ遠回しに言ったのに言い直すなよ……」


 イチゴ、リンゴ、スイカ、トマト、マグロ、唐辛子……調理前の肉、そして……血。

 

 人間にとっては、甘味、酸味、辛味……は痛みか。

 あの鉄の臭いは、彼女にとってどんな味なのだろうか。

 高校に入るまで、ずっと一緒にいたが聞いたことはなかった。


「そうだなぁ……配給の血液は味がなかったけど」

「……まるで配給の血液以外も飲んだことあるみたいに言うなよ……」

「鉄の臭いがするのは当然として……しょっぱかったり、苦いのもあったし……渋いのもあったなぁ。食べるもので変わるのかも」


 急に話は不穏に変わる。

 赤色の味を聞いただけなのに、オリカは目を輝かせて語る。それは普通の人間が、好きな食べ物の話をする時と同じように。


「血も色々なんだなぁ」


 話半分に、イチゴのゼリーを一口。

 甘酸っぱい、爽やかな味が口に広がる。


「ハルのは……多分甘いかな?」

「……なぜ?」

「しーらない! ね、私にも一口ちょーだい!」

「腹こわすぞ、やめとけ」

「え〜ケチぃ」


 文句を言いつつも、オリカは結局食べることはない。何かを食べる俺を、じっと見ているのだ。


 ……もしかして、ホントに俺の血……狙ってないよな?


 


 

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