第19話 魔物狩り

朝、日の出前に俺は目覚めると、外に出て身体を動かしていた。


脚を広げ腰を落とし、左手に刀を持って親指で鯉口を切り、ゆっくりと刀を抜く。

横一文字に刀を抜き、そのまま振りかぶり振り下ろす。

振り下ろした刀の刃を返して斬り上げ、斬り上げた刃を返し、刀を突き出す。

脚を後ろに下げて血振りをし、残身を残しながら刀を納刀する。

この動作をゆっくりと意識をしながら型をなぞる様に何度も繰り返していた。


次は、刃筋を立て、円形線を描く様にゆっくりとなぞる。

刀を振るうのでは無く、刀に振るわれる様にゆっくりと円を描きながら足と腰を動かしながら動作を行う。

始めはゆっくりと刀を振るいながら素振りをし、徐々にスピードを上げていく。

刀の重さを利用し、刀を振るう。

何度も何度も。

ヒュンヒュンヒュン。

刀の声を聴きながら何度も振るう。

刀は、刃筋をしっかりと立てて振るわなければ、刀の声は聴けない。

刀の声が聴けない時は、動作・振り方・角度が間違っていたり、刃筋がブレている。

それを確認しながら身体に馴染む様に何度も繰り返し調整をする。

ヒュンヒュンヒュン。

朝日に照らされた竜の谷に刀の声が木霊する。


一連の動作が終わった俺は、刀をゆっくりと納刀し残身を切る。

残身を切った瞬間、身体中から一気に汗が噴き出した。

夜風の冷たさが残る微風に身を晒し身体を冷やしていると、ハゲが近づいて来た。


「相変わらず、旦那の動きは独特なんだな。」


俺は、アイテムボックスからタオルを取り出し身体を拭いた。


「その武器、刀だろ?」

「知っているのか?」

「ダンジョンで偶に出るからな。」


どうやら、この世界にも刀はあるみたいだ。


「っても、あんまり人気は無いだがな。」

「何故だ?」

「直ぐに刃こぼれするは、曲がるは、折れるからな。」

「それは、使い方を間違っているだけだ。」

「だろうな。旦那を見てて思ったぜ。」


俺は、煙草に火を付けると、アイテムボックスから木剣を取り出すと、ハゲに放り投げた。

受け取ったハゲに「振ってみろ」っと言って木剣を振るわせた。

ブン…木剣を振り下ろした音がした。

まぁ~こんなもんだろうと思い、俺はハゲに教えてた。



「刀と直剣の違いは分かるか?」

「いや…」

「刀は刃筋を立て、円を描く様に振るう…いや、刀に振るわれるっと言った方がいいか。」

「刀に振るわれる?」

「あぁ、遠心力を使い刀の重さを利用して振るう。」



俺はそう言って刀を抜き、柄の後ろを持って片手で振り回した。

遠心力を使い、片足を軸に腰を捻りながらくるくると半回転をした。



「それが正しい使い方なのか?」

「さぁな…俺も我流だからな、誰かに師範された訳じゃない。」

「違うのかよ‼」


ハゲがツッコンだ。

俺は無視し、近くの岩の前に立つと、刀を納刀し構えた。

腰を落とし鯉口を切ると、一気に刀を抜き、岩を斬った。


「刃筋を立て腰を捻り、刀の重さを利用して刀を振るうと、こんな風にバターを斬るみたいに斬れる」


ハゲはスゲーなっと感心し岩を眺めていた。

俺は刀を納刀すると、アイテムボックスからロングソードを取り出して構えた。


「お前達が使う直剣は、刃筋を立て剣の重みを利用して叩き斬る。」


上段に構えた俺は、一気にロングソードを振り下ろして岩を斬った。

俺はロングソードを鞘に戻すと、ハゲに突き出して「やってみろ」っと言った。

ハゲは木剣を俺に返すと、ロングソードを受け取り、岩を斬りつけた。

ガギン!

岩は斬れずにロングソードを弾き返した。


「痛ってぇー!やっぱ無理だは…」


ハゲは痛がり、片手をぶらぶらさせていた。

俺は、「もう一度構えろ」っと言ってハゲに上段で構えさせた。


「脇を少し開け力を抜け。」

「あぁ」

「ゆっくりと剣の重さで腕を下げろ。」

「あぁ」

「違う、腕で振るうな」

「…」

「左手一本でやってみろ。」

「ムズ…」

「右手は添えるだけだ。」

「キッツ…」

「そう、そのままゆっくりと振り下ろせ。」

「…」

「岩に当たる瞬間に脇を閉め両手に力を入れて振り抜け。」

「…こうか?」

「あぁ、それが兜割の原理だ。」

「無理だろ…」

「後は、自分で試行錯誤して使える様になるんだな。」


俺はそう言って朝食をとりに行った。


ハゲよ間違ってたらスマン。

うる覚えの兜割の原理だけど…大丈夫だろ…多分。




朝食をとり終えた俺とロゼは、竜の谷の奥地に向かって歩いてる。


「なぁ~ロゼさんや。」

「何でしょうか?ご主人様。」

「魔物が全然襲って来ないのは気のせいか?」

「近くには居るみたいですが、物陰に隠れてやり過ごそうとしていますね。」

「このまま放置して先に進むか?」

「私は構いませんが、他の者達の餌はどうするのですか?」

「そうだよなぁ~…」


ここは谷の入り口に広がる森の手前の草原。

山に囲まれた盆地になっている。

所々にある木や岩に、頭を隠して身を潜めてる魔物がちらほらと見える。

まさに、頭隠して尻隠さず。


当初の予定では、ここで適当に狩りをし、食料を入手する予定だった。

イノシシに蛇、シカやウサギ等の魔物が豊富に生息している為、一通り集めて置きたかった。

しかし…どうしたものか…


「あの~」


一人の女エルフがおずおずと声をかけて来た。

俺は「何だ。」っと答え、女エルフの話を聞いた。


「この子が言うには、御二方の魔力が膨大過ぎるんだと…」


そう言って、何時も二人の後ろに隠れてる、少し背の低い女エルフの頭をポンポンっと叩いた。


「魔力量が膨大ねぇ…ロゼ、これ以上抑えられそうか?」

「無理ですね。これ以上抑えると、いつ暴発するか分かりません。」

「だよな~」


遮蔽スキルなんてあったかな…

俺はそう思いながら、スキル一覧を確認した。


探している間に、魔法と魔力の説明をしよう。

魔法とは、魔力変換法の事を言う。

魔力変換法とは、生命の残滓を力に変える方法。

生命の残滓とは、生物の生命エネルギーが溢れでした物。

要は、生命エネルギーの残滓を使い、事象に干渉し、物理変換を行い、物理現象を引き起こす事が魔法だ。

分かったかな?

詳しくは、時間が出来た時にでも話そう。


そんなこんなで、スキル一覧に追加されていた魔力遮蔽をアクティブ化した。

何故スキルが追加されたかと言うと、憶測だが、使い方や遮蔽する方法を知っていたからだと思う。

スキルとは、補助システム。

剣術スキルなら、剣の振り方・捌き方・扱い方等の知識と動作補助をしてくれるシステムだ。

この辺の話も、時間がある時に説明しよう。


俺とロゼが遮蔽スキルをアクティブ化させて、背の低い女エルフを見ると、首をコクコクと縦に頷いていた。

どうやらこれで問題なく遮蔽出来たみたいだ。

辺りを見回すと、先ほどまで隠れていた魔物達が遠巻きにこちらを見ていた。

遮蔽出来たからといって、急に襲って来るほど知性が低いわけでは無いようだ。

俺はアイテムボックスからアイテムを取り出した。

[魔物寄せの香]

周囲に生息する魔物を興奮状態にさせ、臭いの下に集める効果がある。

俺はこれを適当に周囲に設置して火をつけた。

モクモクと白い煙が上がり、周囲に甘ったるい匂いが立ち込めた。


「だ…旦那…これをこんなに炊いたら、周囲の魔物全部集まって来るぜ…」


ハゲは口を引き攣かせながら話しかけて来た。

俺は「大丈夫だ問題ない。」っと答えて、ロゼに話しかけた。


「ロゼ。好きに暴れていいぞ。」

「宜しいので?」

「あぁ。どうせ滅ぶ世界だ、好きにしてかまわん。」

「畏まりました。」


ロゼは返事をすると、アイテムボックスから大鎌を取り出した。

ブンブンっと振り回すと「行って参ります。」っと言って、集まって来た魔物の群れに突撃して行った。

ドォォォン‼大きな衝撃音と砂煙が上がった。

ロゼと魔物の群れが衝突したみたいだ。

打ち上げられた魔物が何匹かこちらに飛んで来たが、既に首を斬られて死んでいた。

そんな魔物達が次から次へと、ロゼが暴れる衝撃音と共にこちらに飛んで来る。

その光景を見ていたハゲ達は、揃って口を開けてポカーンとしていた。

俺は、ハゲに呆けてないでさっさと回収しろと命令した。

ハゲ達は「あぁ…」っと返事をすると、いそいそと回収を始めた。

俺はそれを確認すると、煙草に火を付けロゼを眺めた。


森から出てくる夥しい魔物の群れを、ロゼは縦横無尽に駆け回り大鎌を振り回している。

オークにゴブリン・ビッグボアやジャイアントヴァイパー等多種多様な魔物が次々と首や胴体等を斬られて死んでいく。

上段から振り下ろされた大鎌の衝撃で吹き飛び、下段からの斬り上げで打ち上げられ、大鎌を振り回す衝撃で次々と吹き飛ばされていく。

もはや蹂躙だな。


俺は煙草の火を消すと、周囲から集まって来た魔物の討伐に向かった。

俺が離れる際、ハゲが何かを言っていたが…大丈夫だろ。


俺は向かって来た狼の群れを、腰を落とし足に力を入れて、一気に群れに飛び込んだ。

「抜刀剣術 一閃」

すれ違いざまに狼の群れを斬ると、そのまま次の群れに飛び込んで行く。

「一閃」「一閃」「一閃」「一閃」「一閃」「飛斬」

何匹か討ち漏らした魔物が、ハゲ達に向かったので「飛斬」で援護しつつ、魔物の群れを斬っていった。

狼・イノシシ・ウサギ・鹿・牛に蛇

平原の方も多種多様でなかなか面白い。


しばらく魔物を蹂躙していると、ひときわ大きいな巨大なイノシシが突っ込んで来た。

流石にぶつかると吹っ飛ばされそうだったので、大きく回避した。

10tダンプ並みの大きさのイノシシは、俺の横を通り過ぎるとしばらくして立ち止まり、反転して足を駆け鳴らした。

それを見た俺は一気に間合いを詰め、イノシシの上空に飛び上がり「断頭斬り」で、イノシシの首を斬り落とした。

ズドォンと倒れる大きな衝撃音を聞きながら、ハゲ達を確認すると、必死に魔物の群れと戦っていたので「飛斬」で援護して、魔物の群れを吹き飛ばす。

そして、一閃を使いながら魔物の群れに飛び込み蹂躙を開始していく。


しばらく援護しつつ魔物を蹂躙していると、魔物の後方から次々と魔物達を吹き飛ばしながら巨大な牛が群れを率いて突っ込んで来た。

流石に一気に片付ける事は出来なさそうだし、チラッと後ろを見れば、ハゲ達には危険そうだと思い、強く地面を踏みつけて「アーススパイク」の魔法を発動させた。

俺の足元から次々と巨大な土槍が無数に突き出し、前方の群れに向かって伸びていった。

次々と突き出してくる土槍に、魔物達は突き刺さらず、上空に打ち上げられていった。

当然、こちらに向かって突っ込んで来た牛の群れも止まる事は出来ずに、次々と土槍に飲み込まれ打ち上げられていった。

こちらに飛んでくる牛の群れを眺めながら、俺は何かが違うっと思った。

打ち上げられた牛や魔物達は、ほとんどが即死や落下死だったが、大きな牛だけはかろうじて息をしていた。

俺は大きな牛の首を撥ねて止めをさすと、前方を眺めて状況を確認した。


大方、草原の方は片付いたみたいだ。

おそらく、さっきのがボスクラスの魔物だったんだろう。

俺はそう思いながら、煙草に火を付けロゼの方を確認した。

ロゼは、ひときは大きなヒュドラとバジリスクを相手に無双していた。

俺はフーっと煙を吐くと、刀を納刀し、ハゲ達の方に戻った。


戻って来たハゲ達は、揃って口をパクパクさせ顔を真っ青にさせていた。

流石に怖かったかっと思い首を傾けていると、ハゲが俺の後ろを指さし、口をパクパクさせていた。


「…マウ…ロッ…ロック…ロックマウンテンタートル…」


振り返って後ろを確認した俺が見たのは、小さな丘位の大きさの岩山が、ゆっくりと近づいて来るのが見えた。

俺は「はぁ~」っとため息を吐くと、今使ってる普通の刀サイズじゃ無理だと思い、アイテムボックスから、お気に入りの5尺刀を取り出した。

それを左手に持って、一気に駆けだした。

俺が走って来るのが見えたのか、ロックマウンテンタートルは自分の周囲に「ストーンバレット」の魔法を展開させると、一斉に放って来た。

ロックマウンテンタートルサイズになると、放ってくる「ストーンバレット」も、小さな石槍サイズではなく、大きな岩槍だった。

俺は、放たれた魔法を円を描く様に避けながら、ジグザグに進み接近していった。

飛んで来る魔法を刀で受け流し、いなしながら進んだ。


ロックマウンテンタートルの近くまで来た俺は、あまりのバカでかさに呆れながらも、顔まで飛び上がって、5尺刀を頭上に掲げ、両手を広げて刀を抜き「断頭斬り」で首を落とそうとした。

危険を察知したロックマウンテンタートルは、すぐさま首を引っ込めて攻撃をかわした。

着地した俺は、鞘をアイテムボックスに放り込むと、すぐさま足を斬ろうと両手で刀を構え、駆けだした。

危険を察知したロックマウンテンタートルは、すぐさま足を引っ込めて大きな巨体を地面に落とした。

ズドォォォォン‼

大きな衝撃と砂埃を巻き上げ、俺は巻き込まれないよう距離をとった。

すると、砂埃に隠れてロックマウンテンタートルは、魔法を発動した。

巻き上げられた砂埃の中から無数の岩槍が次々と飛んで来る。

俺は走りながらそれをいなし、受け流し、躱しながらロックマウンテンタートルの周囲を走った。

逃げ回ってるだけに嫌気をさした俺は、思いっきり地面を踏みつけて一本の巨大な岩槍をロックマウンテンタートルの腹の下から突き刺した。

「アーススパイク」の魔法を一つの巨大な岩槍に変えて発動させたんだ。

ロックマウンテンタートルの腹と甲羅を突き破り、少し持ち上がったロックマウンテンタートルは頭と手足を出しバタバタとさせていた。

すかさず俺は、ロックマウンテンタートルの顔に近づき「断頭斬り」で首を断ち斬った。

大量の血を噴き出したロックマウンテンタートルは、しばらくバタバタと暴れていたが、少しすると大人しくなり、首から大量の血を流しながら動きを止めた。


動きを止めたのを確認した俺は、魔法を解除しロックマウンテンタートルを地面に落とし、煙草に火を付けフーっと煙を吐くと、ハゲ達の方に戻った。


ハゲ達の所に戻って来た俺を、ロゼは「お疲れさまでした。」っと迎えてくれた。

戻って来た俺は、ロゼの方を確認すると、大きなバカでかい蛇が倒れていた。

もはや蛇っというよりは龍に近いんじゃない?

ハゲ達は地面にへたり込んで「ハァーハァー」っと息を荒げ疲れ切っていた。

特に何もしていないだろっと思いながら、ハゲにさっさと回収してこいっと命令すると、ハゲはマジかよって目で俺を見て来た。

俺はそれを無視して、ロゼが準備してくれた席に座ると、煙草に火を付けコーヒーを飲みながら回収が終わるのを待つのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Creation World 蓮華 @renka0530

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ