第18話 竜の谷

ロゼを堪能した俺は、拠点の外に出た。

外に出た俺に気づいた頭が俺に声を掛けて来た。


「言われた通り、温泉に入って綺麗にした。これから俺達は何をしたらいい?」


頭に言われ、下っ端や奴隷達を見ると小綺麗になっていた。

ただ、装備や衣服がボロボロで汚く感じるが…

しょうがない…旅は道連れ世は情けってな…


「今から長旅になるから準備だな。」

「昨日渡された金貨でか?」

「あぁ~それで食料や装備、衣服等必要なのを買ってこい。」


俺と頭は必要な物をピックアップしていった。

食料・装備・衣服・薬・テント等。

後、それらを運ぶ馬車もいるっという事だったので、追加で金貨9万枚投げつけてやった。

それと、食料等を入れるためにマジックバックも2つ投げつけた。

それらを顔面で受け取った頭は、こめかみをピクピクさせながら「いいのかよ。」って言いながら部下に渡した。


買い出しには、下っ端2人と奴隷エルフの男2人で行かせる事にした。

ちなみに、爆撒したのは下っ端Cらしい…


買い出しには3日掛かるとの事なので、頭・奴隷商・女エルフは待機。

ちなみに、奴隷狩りの頭の事をハゲと呼ぶ事に決めた。

残りの奴隷商やエルフ・下っ端等はどうでも良い…興味がない。

女エルフが何かギャーギャー騒いでたが無視した。

どうせ、扱いなんて変わらないんだから。


そんなこんなで、俺はロゼと3日間レッツパーリーを楽しみ優雅に過ごした。


準備が出来た俺達は、奴隷の乗る馬車に乗り出発をした。

男エルフは護衛と称して外に追い出した。

ハゲが奴隷に武器を持たせるのは危険だと騒いだが…知らんがな。

襲われたら返り討ちにすればいい。

嫌なら、奴隷契約で縛ればいい。

そんな事を言うと、ハゲは渋々奴隷契約でエルフ達と契約し武器を渡した。

まぁ~無駄だろうが…

ちなみに、女エルフ達は好きにして良いと言った。

男には必要だろ?

そんなこんなで何事も無く俺達は出発した。

女エルフがギャーギャー騒いでたが…






「あ~る晴れた昼下がり、市場へ続く道~♪荷馬車がゴトゴト、エルフを乗せて行く~♪」


現在俺は、馬車の檻から顔を出しゲロをぶち撒きながら歌っていた…


「ご主人様、変な歌を歌わないで大人しくしていて下さい。」


ロゼに背中を擦られながら注意された。


俺は馬車をなめていた。

車輪は木製、ゴム等の衝撃吸収もない。

荷馬車に板バネやサスペンション等があるわけもなく、衝撃と揺れがダイレクトにくる。

道は舗装等されているわけでもないから、当然でこぼこだ。

揺れて跳ねて…正に出荷されてる気分だ…

先ほどまでギャーギャー騒いでた女エルフも、今は馬車の端に身を寄せ合い鼻を摘まんでいる。

そっちに行って吐いてやろうか…


「メイドの嬢ちゃん、エルフの旦那は…大丈夫じゃないな…」


ハゲがロゼに俺の様子を伺ってきた。


ちなみに、ハゲはロゼの事を「メイドの嬢ちゃん」と呼び、俺の事を「旦那」と呼ぶ様になった。

始めは、ロゼやロゼ様等と呼んでいたが、ロゼが「ご主人様以外に名前を呼ばれたくありません。」っと拒否をした。

じゃ~メイドさんやメイド様とかになったんだが…何か違う。

嬢ちゃん呼びしたらキレるは…

ハゲが困った顔で俺を見てくるは…俺にどうしろと…

結局、メイドの嬢ちゃん呼びで落ち着いた…

嬢ちゃんはダメだがメイドの嬢ちゃんは良いらしい…

よく分からん…


「馬車酔いにはポーションが良いらしいぞ。」


ハゲが乗り物酔いにはポーションが効くと教えてくれた。

ロゼは早速、ポーションを取り出し俺に飲ませてくれた。

気持ち悪い時に飲むと余計に吐きそうになる…

俺は吐きそうになるのを我慢して少しづつ飲んだ。

二日酔いみたいに劇的な変化は無かったが、多少気分がマシになったと思う。

おそらく、三半規管等の不快なストレスが緩和されたんだと思う。

ハゲ…グッジョブ!

俺はハゲに親指を立ててグッジョブのサインをした。


そん感じで馬車は進み、最初の野営地に到着した。


俺とロゼは簡易拠点で休み、他はテントや馬車で休息をとった。

そして事件は起こった。


朝、目覚めて外に出た俺が目にしたのは、ハゲ達に斬られて死んだ男エルフ達だった。

結局こうなってしまったか…


ハゲに話を聞くと、昨晩自分達が寝ているところを襲いに来たらしい。

奴隷契約の魔法で縛られてるのに、せめて一矢報いる為に攻めて来たみたいだ。

気持ちは分からなくはないが…

もう少し利口的になって欲しかった。

ハゲも最初は冷静に話し合いで対応していたが、収拾がつかなくなり、最終的に斬ってしまったと謝罪をしてきた。

予想はしてたから咎める気は無いのだが…

女エルフ達の嫌悪感が更に酷くなってるのが気がかりだ…

これは…ダメかもな。


2日目

ポーション片手に俺は馬車に揺られ吐き気と戦っていた。


3日目

馬車をやめて馬に乗ろうとしたら、馬に拒否られた。

渋々、ポーション片手に馬車に乗り込み…吐き気と格闘。


4日目

何時も通り、ポーション片手に格闘していると。


バシン‼


ロゼがブツブツ言ってる女エルフの頬を叩いた。


「あなた達いい加減にしなさい。」


ロゼがエルフ達に説教を始めた。


「何時までぶつくさと文句を言ってるつもりですか?」


「だってしょうがないでしょうが!私達に何をしろって言うのよ!」


女エルフがロゼにかみ付いた。


「知りませんよ。」


当然、ロゼはバッサリと切り捨てる。


「じゃ~どうしろっていうのよ!私達はどうなるのよ‼」

「知りませんし、興味もありません。」

「だったら解放してくれても良いじゃない‼」

「それを決めるのは私ではありません。」

「だったら、あなたのご主人様に聞いてよ!解放してよ‼助けた責任取りなさいよ‼」


バシン‼


ロゼが、今だ騒いでる女エルフの頬を叩いた。


「いい加減にしなさい!私達はあなた達を助けたつもりもなければ助ける義理もありません‼」


「だったら解放してよ‼あそこのゲロ男に言いなさいよ‼」


ドッカ


ロゼが女エルフの腹を蹴った。

蹴られた女エルフは蹲ったところを、ロゼに頭を踏みつけられた。


「次にご主人様対する暴言を吐いたら只では置きませんよ。」


ロゼは怒気を振りまき、女エルフの頭を足で押さえつけた。

流石に収集が着かなくなって来たので、ロゼを呼び止めた。


「ロゼ。」

「…しかし…」

「ロゼ‼」

「…畏まりました。」


ロゼは渋々ながらも、足をどけて戻ってきた。

残った2人の女エルフは、蹴られた女エルフを介抱し俺達を睨み付けていた。

ロゼは戻って来るなり謝罪をしたが、俺は気にするなっと言ってロゼを落ち着かせた。

最悪の空気のまま馬車はしばらく進み、ようやく休憩ポイントに着いた。



ロゼは昼食の準備に取り掛かり、下っ端達と奴隷商は馬車の点検と馬の世話を始めた。

残った俺は、ハゲを連れて女エルフ達の所に向かった。

ハゲが外れくじを引いたみたいな顔をしていたが気にしない。

俺達が近づいて来たのを、女エルフ達は嫌そうな顔で見てきた。

俺は気にする事無く近づくと、ハゲに命令した。


「今晩、こいつらを犯せ。」

「はぁ~?何でだよ?」

「お前達が拾ってきたんだろ。」

「拾ったって言うか…捕まえた…て言うか…」


ハゲはしどろもどろに答えた。


「なら、責任取って犯せ。」

「だから!何でだよ‼」

「吠えるだけの犬を世話する気はない。」

「犬って…」


そう、彼女達は嘆いて吠えるだけで何もしない、しようともしない。

だから気に食わない。

境遇は察するが、自ら行動する気がない。

なら人形と同じだ。

檻を開放して自由にしてるのに出ようともしない。

出て来ようともしない。

ただ、嘆いて吠えるだけ。

だったら、立場を分からせるしかない。

自ら道具になり果てるなら道具として使えばいい。


「自ら動く気のない奴には立場を分からせるしかないだろ?」

「…そりゃ~そうだが…」

「自ら道具になり果ててるんだ、道具として使うしかないだろ。」

「…道具って…酷くないか。」

「そうしたのがお前達だと思うんだが。」

「…」


ハゲは苦虫を噛み潰した様に嫌そうな顔をした。


「何もしない犬に食わせる餌はない、責任もって躾ろ。いいな。」

「…あぁ…わかった。」


俺とハゲが会話しているところに、一人の女エルフが突っかかって来た。

ロゼと言いやいをしていた奴とは違う奴だ。


「何であんた達にそんな事決められなきゃいけないのよ‼何であんた達に犯されなきゃいけないのよ‼」


俺は檻の中に手を突っ込み、女エルフの胸倉を掴んで引き寄せ、顔を近づけた。


「お前達が何もしない、何もしようとしないからだ。」


俺は怒気を含ませてしゃべった。


「自分達の境遇に嘆き、吠えるだけの犬を世話をする気もない。

自ら行動出来ない者に掛ける慈悲もない。

逃げる事もせず、媚びる事もしない、自ら命を絶つ事もしないただの人形に何をしろと?

初日に、奴隷狩り達を襲った男エルフ達の方がまだマシだ‼

あいつらは何も出来ないと分かっていながらも、こいつらに一矢報いようと戦った‼

自分達を襲ったこいつらに復讐しようと剣を取った!

仲間の仇を取ろうと剣を振るった!

お前達はどうだ‼何もしない、嘆くだけ。解放しろと叫びながら逃げる事もしない‼

自ら媚びを売り自分の価値を示せない奴を、俺は助ける気はない‼」


俺はそう言って掴んでた胸倉を離して女エルフを押し退けた。


「旦那…流石に言い過ぎだぜ…」


「黙れ‼」


奴隷狩りの頭のハゲが俺を咎めようとしたが、一括した。


ハゲの胸倉を掴んで引き寄せ、顔を近づけて俺はキレた。


「元々はお前達の責任だろうが‼俺達エルフ族・魔族・獣人族・ドワーフ族を、獣を狩るように追い詰め、玩具を壊す様に村を焼き、住人を殺し、弄んでるのは誰だ‼お前達だろうが‼」


俺はハゲの頭を掴むと檻に押し付けて、女エルフ達を見させた。


「捕まったこいつら、同族がどうなってるかはお前達は知ってるだろうが‼

犯され・辱められ・凌辱され・殴られ・甚振られ・拷問され、最後はゴミの様に殺され、捨てられる。

そうしたのは誰だ?そうしてるのは誰だ?お前達だろうが‼

俺達を罪人と呼称して追い詰め、逃げ惑う者・助けを乞う者・慈悲を願う者を、嘲笑い・貶し・咎め・笑いながら殺してるのは誰だ‼お前達だろうが‼それを今更同情、笑わせるな‼吐き気がする‼」


俺はそう言ってハゲを横に押し退けた。

尻もちをついたハゲが俺を見上げていた。

俺は煙草に火を付けるとフーと吐きハゲに言った。


「お前達が、こいつらと同じ境遇に立って自覚したのかは知らないがもう遅い、お前達はやり過ぎたんだ、殺し過ぎたんだ。死んで逝った者達に、どう反省するつもりだ?どう贖罪するつもりだ?」


ハゲは尻もちをついたまま黙って聞き、土を握りしめていた。

ロゼも、奴隷商も、下っ端達もこちらを見ているが、何も言って来ない。


「何もないなら、黙ってそのまま死んで逝け。」


俺はそう言ってロゼの所に戻った。

戻って来た俺をロゼは黙って迎え、食事の用意をしてくれたが、やんわりと断った。

正直、今はそんな気分じゃない。

ロゼにコーヒーを頼み、煙草を吹かして気分を落ち着けた。


やってしまった。

言ってしまった。

俺も、人に偉そうに言えるほど立派な人間ではない。

むしろ欠点だらけのダメな人間だ。

だけど、あいつらを見ているとイライラした…

自分を見ているようで…

これは…八つ当たりだな…

俺は空を見上げ煙草を吸いながら気分を落ち着けた。



その後、俺とロゼは他の奴らを無視して二人で歩き始めた。

ハゲや奴隷商達は黙って俺達の後を付いて来た。

無言のまま俺達は歩き、適当なところで野営をして夜を明かした。


5日目

俺とハゲは、「行かなかったのか?」っと簡単な言葉を交わした後、馬車に乗り込み目的地に向かった。


6日目

昼過ぎに、ようやく目的の竜の谷に着いた。


目の前には広大な森と草原が広がっており、それを囲うように山々連なり山脈を形成している。

この山脈の谷間こそが、竜の谷と呼ばれるドラゴン達の縄張りだ。

とはいえ、いきなりドラゴンが出てくる分けでもなく、餌となるトカゲやワイバーン達が数多く生息している。

それらを退け、奥の谷間にドラゴン達が住んでいる。

さらにその奥に聳える広大な山が、目的の神竜の生息域だ。


今から向かっても、直ぐに夕暮れになる為、俺達は近くで一晩過ごす事となった。


夕食を食べ終えた俺は、煙草を吸いながら目の前の山を見ていた。

何もしない駄竜。

動く気もないドラゴン達…

哀れなものだ。

そんな事を思っているとハゲが近づいて来た。


「なぁ~旦那…俺達も着いていって行っていいか?」

「何故?」

「旦那が何の目的で行くのかが気になってな。」

「怖いもの見たさならやめておけ。」


俺はそう言ってハゲを見た。

ハゲは申し訳なさそうな顔をしながら俺に話しかけた。


「あの後、俺達はエルフの嬢ちゃん達に怒られたんだ。「罪人は私達じゃない!あなた達人族よ‼」ってな。」


「それで?」

「旦那は一人で戦ってる、だから私たちは見捨てられたんだって。」

「フフフフ…戦ってるか…」

「違うのか?」

「違う。」


俺は笑ってしまった。


「俺は別に戦っていないさ…ただ…」

「ただ?」

「この世界が嫌いなだけだ。」


俺はそう言ってハゲを見た。

俺の顔を見たハゲは、喉をゴクリと鳴らし恐怖していた。


「お前は、あの山に住まう者を知っているか?」

「神竜だろ…」

「あぁ…フェンリル・タイタン・神竜、何故あいつらが神獣として畏れられ崇められているか知っているか?」

「バケモン…神みたいに強いからだろ?」

「それもあるが違う。神獣は世界の守護獣だ。」

「…」

「世界樹焼けた日、あいつらは動かなかった…いや動けなかったが正しいのか…」

「…」

「後は知ってるだろ?フェンリルは教会に牙を剝き、タイタンは生き残った者達を守る為に、異世界から召喚された勇者と戦い、命を落とした。残った神竜は、今だあそこに籠ったままだ。」

「だから会いに行くのか…」

「あぁ…黙って死を待つのなら、引導を渡してやらんとな。」




俺はそう言って、ハゲを残して拠点に帰った。


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