私の子供時代の思い出は灰色だよ?

ゆる弥

どんな色が好き?

『どんないろーがすき?』


「あかー!」


『赤いいろーがすきー。いちばんさーきになくなーるよー……』


「僕は青が好きー!」


 テレビから流れてくる子供向け番組の歌に合わせて孫の勇気が叫んでいる。


「ハッハッハッ! そうか。勇気は青が好きか! おじいちゃんはなぁ、黒が好きだぞぉ!」


「黒はくらい色だからやだー!」


「そうか。勇気のママはピンクが好きだったぞぉ?」


「ふーん。そうなのー?」


 勇気は不思議そうな顔だ。


「父さん、私はピンクが好きだったことなんてないわよ。勝手に好きだと思ってたんでしょ」


 自分の部屋を片付けていた娘がやって来てワシにチクリと言葉を投げかける。


「そ、そうか? 勇気は青が好きなんだな」


「……私が子供の頃、父さんは一つも遊んでくれなくて仕事ばかりだったよね? 母さんは家事に忙しくて私はかまって貰えなかった」


 勇気を眺めながらそんなことを言い始める娘。今、妻は友達とお茶をしに行っている。娘が急遽ウチに来ることになったからワシが一人で孫と一緒に遊んでいたのだ。


「私の子供時代の思い出は灰色だよ? 鮮やかな色のない子供時代だった」


「すまなかったな。あの頃は仕事をする事が家族の為になると、本気でそう思っていたんだ」


「はぁ。ごめん。それは今となっては分かるの。今は共働きだし、私も働きたくて働いているしね」


 妻にも娘にも苦労をかけていたんだと気がついたのは娘が結婚して孫ができてからだった。もう遅いよなぁ。


「もう遅いかもしれない。けど、ワシにチャンスをくれないか?」


「チャンス?」


「勇気の思い出は色とりどりにしてやりたいんだ。いろんな所に連れていこう。今度、水族館なんてどうだ? 少し距離はあるが、皆でドライブして行こう!」


 娘は少し寂しそうに目を伏せる。


「私の時もそうして欲しかった……」


「そうだよな……」


「でも、これから勇気と一緒に私も父さんとの思い出に色を付けていけばいいのかも」


 ワシは、申し訳ないという思いで胸を締め付けられる。同時に、娘もまだワシの子供なんだと再確認し嬉しい気持ちになる。


「そうだ。一緒に行こうじゃないか! 駿くんも一緒に五人皆で行こうじゃないか! ワシが運転するから任せろ!」


「ふふふっ。そうね。運転はおてのものだものね?」


 ワシはタクシーの運転手をしている。だから、人を乗せての運転は得意なのだ。


「勇気。今度、じいじと一緒に水族館に行くか?」


「いくー! イルカ見たーい!」


「ハッハッハッ! いいぞー! イルカショー見ような!」


 勇気が抱きついてくる。

 孫というものは可愛いもんだ。

 娘にもこうしてやれば良かったんだな。


 頭を撫でていると、娘が寄ってきた。

 

「父さん、私も……」


 頭を差し出してきた。

 撫でてやると頬をピンク色に染める。


「いつの間にか成長したな。本当に……」


 ワシの目は湧き上がってきた涙で前がみえなくなった。これからの娘との思い出は色鮮やかにしよう。そう誓うのであった。

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