12 キャラメリゼをするカップル作家、いっちょうあがり


さて、まずりんあおいが取った行動は、小説投稿サイトでの互いのユーザフォローであった。


その上で、日記機能を使って簡単なネタばらし。

とはいえ、さすがに「お見合いしました」なんてリアルを赤裸々せきららだだれに書くわけにもいかないので、「たまたまリアルで知り合った、この方の作品にかれて、挑戦しました」程度である。


もちろん、ネットには悪意というのもあるものなので、邪推じゃすいとかそういうのはつきものである、とりんあおいも割り切っていたのは幸いではあった。そのあたり、リテラシーのしっかりしたオタクは強いのだ。


そして、りんあおいも、趣味ながら無駄に向上心はある方だったので、心のおもむくまま、自分のもともとの領分も、相手の領分も、そのまま書き散らすだけ、書き散らし出したのである。


最初こそ、阿鼻叫喚のコメントが付いたが、次第にファン達も慣れて来たのか、溺愛系が来れば「砂糖まぶされた」、NTR系が来れば「砂糖がげついてキャラメリゼ」なんて、そんな恒例のネタが、一体誰が言い出したのか、いつの間にか出来上がっていたし、なんなら互いのファンの流入すらあった。

なお、ごく一部で二人をまとめて「キャラメリゼカップル」なんて呼んでいたファンがいた事は、二人の認識外のことである。


そして、そんなネタが出来上がっていた頃には、りんあおいたびかさなる互いの領分へのアドバイスのやり取りの内に、すっかりと打ちけていた。

なので、本屋で資料探しデートをしたり、気晴らし兼取材として遊園地でデートをしてみたり、とりんの母親が何故か満足げに腕を組んでうなずき、あおいの母親があらあらと微笑ほほえましい視線を投げかけるような仲へと進展していた。


そして、光陰こういんは矢のごとく、時は誰しもが思うより速く過ぎ行くもので、あのお見合いから、二年半が経過した、あおいの誕生日。

いつもの取材を兼ねたフレンチレストランでのディナーで、りんは緊張しながら、ベルベットでおおわれたリングボックスを、あおいへと差し出した。


あおい、その、俺と、結婚、してくだひゃい!」


――しまった、噛んだ。決まらない。しまらない。


耳まで真っ赤になった自覚のあるりんに、あおいはただ驚いて目を見開いてから、その後、はにかんだ笑顔を浮かべて――


「はい! 不束者ふつつかものですが、よろしくお願いします、りんさん」


と、はっきりと答えたのだった。


――――――――――――――


そしてまあ、こうして二人の結婚式は盛大に行われたが、だあれもその祝い酒を私には一口もくれなんだ……というのはヨーロッパの昔語りを閉じる定型句。


その後の二人の幸せな暮らしは、すでに貴方がたも序で見たところ。

もしかしたら、もう今では二人には作品でなく、本当の子供もいるかもしれない。


なんにせよ、幸せな物語の結末に喝采かっさいあれ!!

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