1 それは運命と呼ぶに相応しいのかもしれない
その日、仕事帰りの
「はい」
にっこにこの母親からお見合いの
「は?」
ただいまと言った直後に、おかえりなさいもなく、靴を脱ぐ間もなく、これである。
まあ、
「いやね、今日、みっちゃんとこから、
――お見合い、かあ。
結局、おかえりなさいを言わないまま母親が引っ込んでから、
恋愛という、一般に甘酸っぱいと言われる経験が一ミリもないのか。
そう問われれば、
だが、そうした甘酸っぱくてピンク色な恋など、片思いでしかしてきていない。
それも最後は大学生だから、三十を超えたところの
今では仕事が恋人かというと、そういうわけでも、ない。
しがない営業、のぺーぺーなアシスタント職であるため、よっぽど緊急の案件か、取引先との大規模な懇親会があるとかでなければ、
そのあたりは、腐っても地方の大企業寄り中規模企業だから人手が足りているという現状もある。あくまで比較的、ではあるが。
靴を脱ぎ、ネクタイを
とりあえず明かりをつけて、カバンを置き、受け取ったお見合いの
そう、リアルな恋人もおらず、仕事が恋人というわけでもない
まず、
それから、ノートパソコンの電源を付け、起動後の
「おお……」
開いた
振り袖姿で柔らかく
ただ、それ以上にすごいのは、その振り袖や小物のセンスだ。
白地に、水墨画を思わせる薄墨色やグレーに近い色味で藤や牡丹などの大輪の花が描かれ、その絵柄で途切れた所から下が、白地ではなく、黒にも見えるほど濃い青か緑に切り替わっている。
そこに鮮やかな目を引く金の帯に、かなり濃い、やはり黒に見えそうな緑の、パールビーズのついた
対して、
どちらかというとモダンな振り袖を、とてもメリハリのある組み合わせでまとめ上げていて、端的に、かつ有り
一応、
年齢は
職業は経理事務。
学歴はそこそこ大学の文学部卒。
住所も電車で一駅か二駅範囲の比較的近く。これはおかんネットワークの堅固さを笑うしかない。
名前は――
「
どちらかというと、自分には
と、虚空を
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