ちょっとしたご馳走

ももいくれあ

第1話

富士山の見える部屋。

今まで、幾度となく引越しを繰り返してはきたけれど、

その数10回を超える。

ワタシは富士山が見える景色で育ってきたらしい。

さらに言えば、新幹線も好きだった。

キレイな水も好みだった。

そういう環境がワタシの土台となってきていたのだと、

今となって知ることとなる。

それが、度重なる引越しだった。

引越しを決める基準。

音、匂い、気配、空、そして、富士山。

でも、富士山にはなかなか出逢えない。

偶然出逢うかんじに近かった。

今がそうだ。

窓を開け、夕暮れ時に西の空に、くっきりと映える富士。

スキッとした心地がした。

心呼吸して、少し遅れた洗濯物を取り込んで、

雨戸を閉めた。

午前中には起き上がれない低血圧症のワタシは、

この夕暮れ時を、時々こっそり、独り占めしている。

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