第31話 直接対決
「京子!そういう時はなあ、うんたらかんたら」
「違うの森ちゃん、あーだこーだ」
「…」
「…」
一時間。姫崎と森崎、名前も似ているからかすっかり意気投合し、男二人は空気となっていた。肝心の当主は一向に現れず、人によっては地獄の空気が流れていた。
「姉さん」
禿が森崎に声を掛ける。この子も相当に綺麗な顔をしている。
「おっと。京子、お目当てが来たみたいだよ。永倉さんに黒鉄くん、盛り上がっちゃって悪かったね。今度またおいで」
「時間があっという間だった…これは通いたくなるね」
「目的違うだろ。気合入れろ」
仕事へ切り替える森崎の空気が変わる。それと同時に、こちらも切り替えた。大一番だ。るかくんの後ろへ、私と永倉さんが座った。
「なんでお前たちがここにいる!ふざけてるのか。帰れ!」
血圧が上がりそうな勢いで当主は開かれた襖の前に立つ。実は、個人の遊びを突き止めて邪魔したことは悪いと思っている。
「悪いね、あなた。まあ、座っておくんなんし」
森崎は激昂する様子に全く動揺せず、穏やかに話しかける。ここを選んだのは正解だったようだ。
突然、るかくんは土下座し、腹の底から声を絞り出した。
「お願いだ。これ以上胡蝶を傷つけないでくれ」
「至当主は私や一炉、蘭のことが嫌いですか?維新志士が嫌いですか?」
「当然だ。お前たちは命を奪って時代を手に入れた。許せるはずがない。…火災の時は仕方なく協力してやったんだ。人々の命を守ることが儂らの仕事だ」
こういわれてしまうと私は、もうこの人を悪く言えない。只、誰よりも命を大切にしているだけだ。人斬りが嫌いなのも当たり前だ。そして、関わらせたくないと思う気持ちも当たり前だ。
「それでも、姫崎に毒を仕掛けたのは間違ってるとは思わないのか。胡蝶に毒を仕掛けるのは間違ってるとは思わないのか」
るかくんはいつだって己の意志に従っている。
「胡蝶の指導は皆がやってきたことだ。儂もだ。間違いかどうかなど決めることではない」
「でも、それに苦しんでる孫がいる事実はそこにあるでしょう」
当主は確実に迷いを抱えていた。るかくんは胡蝶ちゃんを傷つけないでくれと言った。
「胡蝶に謝ってくれ。二度と同じことをしないと誓ってくれ。胡蝶の意志を尊重してくれ。それだけで、いいんだ」
再び頭を下げる。それを見ていた。賑やかな吉原は闇を含んでそこに煌めいていた。
るかくんはそれだけと言うが、それがどれほど大変なことか。
当主さんも、きっと自分の意志など関係なくここまで生きてきたのだろう。そういう人間が、他人の意志を認めることがどれほど難しく辛いものか。
光の中から二人。これまた変な組み合わせがひとつ。
「…こっちか。おい娘、うろうろするな、面倒だ」
「分かりました?早く行きましょう!」
「逆だ」
斎藤一と至胡蝶が、三人を探しに吉原へ訪れていた。
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