第26話 人斬りからは逃れられない

 こちらに赴いた理由など、本当は二人とも分かっている。見舞いなどとそれらしいことを言ったが、本当はまた京と一炉に人斬りを頼みたいからだ。しかし、一炉の状況を鑑みると全て京に任せるほかない。

 幼い二人を人斬りにすることに抵抗を感じはした、が、結局は維新の為といいように手駒にしてしまった。京の兄も死なせた。

 一度人を斬る選択をすれば、それは一生付き纏い廻り回る。その業から逃れた罪も繰り返す。

 誰も、人なんて殺したくないんだ。


「あれ、どしたの。着いたよ」

 今も人斬りという選択肢を捨てきれず葛藤する少女。

「馬車酔いしました?眉間に皺寄ってますよ」

 人斬りという選択を捨ててもなお、過去に縛られる青年。

「考え事してただけだ。人気者なんでな」

 人斬りの選択を迫った罪に追われる男。


「木戸さん、お疲れ様です!」

 駆け寄ってきた署長の後ろには一くんに永倉さん、巴さんとるかくんがいた。少しぴりぴりした一くんと永倉さん。巴さんはよっと手を上げ、るかくんは特に興味なさげだ。挨拶には当然、剣にも出てくるよう言ってある。皆、丁寧に頭を下げていた。

「すまないね、急で。部屋を借りるよ」

 こうはなりたくない。他意はなく、そう思った。人斬りで人の上に立つということを、私は受け入れることができない。


「はい、こちら桂小五郎さんです!」

 桂さんは新選組隊士との面識はほぼない。それでも緊張感があったのは、存在が有名だったからだ。とりあえず挨拶をする桂さん。

「京のお父さんみたいな人。桂さん、ちなみにそこの長髪頭は黒鉄るかね」

「適当に紹介するな!誰だよ桂小五郎!」

 と文句を言いつつも、「どうも初めまして」と挨拶した。

「他の人は分かるでしょう?斎藤一くんに永倉新八さん」

 永倉が口を開いた。

「どうも」

 元新選組から見れば、敵の総大将なんてところだろうか。若干気まずい空気ではあるが、仕事仲間と割り切って話をしたい。


 どうぞ、と桂さんを手で示し話を促す。

「ここへは、政府の代表としてきた。正式に八朔芥玄とそれに付する組織に関しての対応をお願いしたい。ざっくり言うと、組織全員の抹殺だ」

 場がしんと静まった。るかくん以外で話していたとき、この命が下されるさろうと、予想はしていた。だからこそ、一つ、必ず約束させてもらいたいことがある。

「殺しをするのは京と一くんだけ。対峙した全員の抹殺の指示は受け取れないよ」

 永倉さんは「俺はどちらでも構わんよ」とは言っている。これは決定事項と付け加えた。

「八朔の暗殺はこちらも譲れない。が、協力を頼む立場だ。…他の組織員については理解しよう」

 ここまで、おおよそ予想通りだ。

「桂サンよ、なんで殺さなきゃいけないのか教えてくれよ」

 これも予想通り。当然の疑問だ。るかくんは納得ができない。この中で唯一「殺す」選択肢が彼にはない。

 「俺は、俺たちはそれしか知らないからだ」

 この答えに、私の心は痛む。それでもなお、朱現くんは人を斬らない選択をした。その凄さを改めて感じる。

 新政府の人らは、人を斬って時代を手中に収めてきた人だ。また、反乱分子が現れれば殺す、という思考はある意味自然だ。


 それを私たちは理解しているが、正しいことだとも思っていない。

 責任として。その方法でしか時代をつくれなかった責任として。それに疑問を持ち、この場で言い放った新時代の一翼を担う青年から、誰一人目を逸らさなかった。

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