第21話 強くたってまだ
七扇に避難所の話を持ち掛け、許可を出してもらった。
「おじさん、ありがとうね」
調理の手伝いは出来ないので、食事を手渡す役目に徹する。
「何、大変なときは助け合いさ」
いつも通りの笑顔に救われた。
手伝いの御礼、と食事を貰い少し人のいない所に座る。今、ここにいるのは一くんと私の二人だけだった。
「中込は知り合い?」
「…確か、二番隊の隊士だったな」
「そうなんだ。正直、想像以上だった。八朔も強いし、元新選組隊士が噛んでるなんて思ってなかった」
これには返事がない。まれに、私から弱音が零れてしまうときは黙って聞いてくれる。
「久しぶりにさ、誰かを死から守った。京が助けていなければあの人たちは死んでいた。それは、きっと良くないことでさ。…平和をつくれたって言うのは勘違いだったのかなって。また人を斬って、たくさんの血が流れて。」
掌を見つめる。薬指に光る指輪に血が映った気がした。
一くんの大きな手に髪の毛をぐしゃぐしゃにされる。
「それでも、いつでも、己を信じてやってきただろう。俺たちは既に正しいであろう道から外れている。そうやって生きていくしかない。それに」
指さす方向には私を見つけ駆け寄ってくる子供がいた。
「あ、お兄ちゃんと妹ちゃん!」
多少の傷跡はあるものの、手当は済んでおり表情も明るかった。しゃがみこみ、顔を撫でる。父親と母親も子らに追いつく。
「ありがとうございました」
四人、ここに確かに助けられた人がいた。家族をぎゅっと抱きしめる。
「どういたしまして。無事でよかったです。二次被害にもちゃんと気を付けて下さいね」
温かい感情をぎゅっと詰めて言った。頭を下げながら、何度も振り返っていく家族に手を振り見送る。
「ごめん。ありがとう。もう、大丈夫」
この先さらなる状況の悪化があろうと。誰かに、自分に死が歩み寄ろうと。雲一つない晴天が私を見守っていた。
立ち上がろうとすると、ふらっとしろちゃんが現れる。背中には剣の書面と見覚えのない高級そうな紙が一枚あった。
「ご苦労様。ありがとう」
お八つを上げてふわふわのしろちゃんを撫でる。先に剣からの連絡を確認することにした。無事に救護を終え、雑務にあたっている内容が二人から。一つ、由良からの内容は衝撃のものだった。
「一くん、由良から。一つ、大砲のようなものが使われた形跡がある。二つ、放火の主な原因は小型爆弾。三つ、どちらも人に直撃した報告は無し」
「大砲に小型爆弾か…」
戊辰戦争のときにそれらしい武器が使われていたことは知っていたが、これにはさすがに驚きを隠せない。人に当たらなかったのならよかったが。小型爆弾を放火に使うとは斬新さを感じる。普通に火をつけた方が早いのにそうしなかったのは武力を見せつけたかったからか。
一くんに剣からの書面を渡し、次の紙を開く。思わずみっともない声が出た。
「うわあ!ちょ、ちょっと見て」
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