第20話 かつての士
「ずっと、何にも興味がなさそうだった。人斬りをする意味も特にないって言ってた。八朔の協力者に優秀な統率者がいて、その仲間に元隊士がいるのかも」
私の考えはこう。つまり、放火犯は八朔でありつつ八朔ではない。八朔の行動を拡大解釈しているのか、強さにほれ込んでいるのかは分からないが、少なくともかばって死んでいったあの男にとってはそれに値する人物だった。でも、当の本人は逃がそうとしてもらっていたとき不満げだった。この考えだと、それにも合点がいくのではないか。
「まあ、八朔に味方しているのか、八朔が味方しているのかは不明だけどね。会ってみて、放火指示は八朔じゃない気がした」
「無頓着そうな奴が遺体を持ち去ったり過剰に傷をつけたとも考えにくいな。指示した別の者がいると考えて間違いないだろう」
一くんは腕を組んで、煙を吐きだした。
ここで一度話を終わらせ、町の様子を見ようと再び肩に乗った時、私たちは一人に声をかけられた。人が慌ただしく行きかう往来の途中。
「八朔はいかがでしたか」
異変に気付き、一くんと朱現くんが前にでる。巴さんと永倉さんもるかくんと私を守れる位置についてくれた。るかくんに担がれたまま警戒を強める。
「…八朔の仲間か?」
一くんが尋ねると、永倉さんの表情が変わった。
「お前、中込じゃないか?」
「…お久しぶりです」
名前で呼ばれた男は二人の元組長の前で深々礼をした。察するにおそらく元隊士なんだろう。気まずくも申し訳なくも思わないが、男から発せられる異様な殺気に心がざらつく。
「知らないお兄さん。何の用」
「おい、やめとけって」
るかくんが見つめてくる。挑発交じりの言い方をするなと言いたいのだろう。だって、私の知ってる新選組はこんなじゃない。もっと_。
中込は頭を下げたまま続けた。
「私が、八朔に情報を流し姫崎京子を襲わせ、放火を指示しました」
淡々とそう告げる中込は一つも動かなかった。ここだけ、時間が止まったような感覚に襲われる。予想が当たっていたのか。
「るかくん、降りるよ」
飛び降り、近寄る。男は顔を上げ鋭くにらみつけてきた。思わず立ち止まる。
「…喧嘩なら買うけど」
「こちらの台詞ですが」
どちらも譲らず、目線を外さない。
「やめなさい」
と巴さんに言われたので、仕方なく折れてあげた。こんな往来の中で刀を抜くことはできないが、刀が無いと殺せない訳でもない。でも、今殺してしまったら、全てが闇に包まれてしまうような予感がする。同じように皆思ったのだろう。
男はそれだけ言いに来たらしい。それ以上言うつもりはないらしい。もう一度礼をし、そのまま人混みに消えていった。
元組長らは複雑な顔をしている。志を共にした仲間にこんなことをされては。私は中込を士と認めることなどないけれど。あんなやつと一くんが一緒なんて嫌で仕方ない。
「気にしない。永倉さんが見たのはあいつの仲間かな」
「そうだな」
手を叩いて空気を変えた。中込から八朔の名が出たことにより、関係が明らかになった。頭の中がごたついている。今すぐ対応が決められない。深夜から動いている疲労も覆いかぶさってきた。皆もそうだろう。どれだけ強くとも、人間は人間なんだ。ひとまず、場を締めることにした。
「とりあえず、みんな生きててよかったよ」
普通に歩く分には問題ない足で、一度署に向かう。
皆の後ろで、一くんと確認事項を共有した。
「まず、放火の方法ね。爆発音を聞いたから、単に火をつけたんじゃないと思う。この火災に乗じた犯罪の確認と取り締まりもする。被害の全容を把握して避難所も開設する必要があるからその手伝いもしたい。後は八朔の消息を辿れれば万々歳かな」
既にしろちゃんくろちゃんとは合流できている。どちらにも火災の被害はなかった。剣には連絡を飛ばし、返事を待っている。
「それでいこう」
署につくと有馬と会うことができた。朱現くんたちを休憩室へ案内させ、一くんと自室に戻る。身支度を整えたり、対応の相談をしていると署長が訪ねてきた為、ざっくりと今まであったことを説明した。
「委細承知した。この件に関してはお前たちに指揮を任せる。八朔関連もだ。政府には私から連絡を取ろう」
署長の計らいは悪くとも良かった。そちらの方が動きやすい。
「ありがとうございます。解決に向けて尽力しましょう」
早速、署に残っていた長谷部も交えて対応を詰めていく。
芥を発見した場合、交戦せずに報告を上げること。
芥以外の協力者の場合、捕縛を許可する。ただし、身の安全を優先すること。発見場所などを必ず報告すること。
火災被害の復興に全力を挙げること。
これらを基本方針とした。署内に伝達が回す。
外に出ると、警官が集まっていた。姫崎には若くして人望もあった。
「何があろうと、全力で国民と君たちを命を懸けて守ることを誓おう」
四大の存在、芥の動きについては、ほとんどの人間が知らない。姫崎京子が《姫》であることを知っている人間はさらに少ない。
それでも、居ただけでこの町が狙われた原因を招いたかもしれない事実は、姫崎を苦しめた。しかし、彼女は止まらない。
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