第11話 黒鉄るかの実力

 そうきたか、みたいな表情が多い中、

「やっぱりそうなるだろ」

 と一くんは納得した様子で口角を上げている。

「やめてくれる、京のは手合わせです。二人のは喧嘩。争い。初めましての人だからね、半端に手伝ってくれとは言えないよ」


「京に竹刀貸してくれる?黒鉄くんの刀、大太刀だよね。皆が構わないなら真剣でいいよ」

 大太刀の竹刀なんて見たこと無い。竹刀同士の手合わせでも実力は量れるが、折角なので戦いざまを見たい。竹刀を受け取り真剣二振りは一くんに渡してしまった。先に道場の中心に立つと、黒鉄くんは不安そうにしている。当然の反応と言えばそうだろう。その背中を楽しそうに「大丈夫大丈夫」「手加減するなよ、思いっきりいけ」などと押す元志士共。ふん。

 適当に竹刀を差し、準備運動ぽく腕を回す。両者が中央に向かい立った。


 実は大太刀使いとは戦ったことがある。師匠お兄ちゃんの友人に大太刀が大好きな変わった使い手がいた。彼も大柄で、大胆な戦い方をする男だった。その一回きりだが、どういう剣術を見せてくれるのだろうか。


 顔の前に垂直に刀を掲げた。くるっと回し背中側で抜刀する。これが黒鉄くんの抜き方か。普通、大太刀は独りで抜かない。抜けない。独りで抜くのは芸だ。そうなるはずなのに、黒鉄くんの抜刀は技だった。

 しゃがみこんで鞘を置き、構える。洗練されている綺麗な型だ。もっと距離が詰まっているとまた違う抜き方になるはずだ。ちょっと見てみたいと思ってしまう。

「いくぞ」



 こちらも竹刀を構える。瞼を一瞬降ろす。視界を塞ぎ体中の全ての感覚を研ぎ澄ます。瞳を開けば、始まる。道場には自然の音と人の鼓動だけが残った。

「腕試しだ、かかってきな」


「さっ」

 黒鉄くんは左手で刀身を支える構えのまま、こちらへ距離を詰めてきた。左手は添えたまま斬りかかってくる。すばやく、かつ重さもある。刃を受ければ竹刀は真っ二つになってしまうだろう。とりあえず身を躱して距離をとる。

「凄いね」

 その距離も彼にとっては間合いの中。振り下ろされる刃の切っ先を丈夫な柄の方で受け止める。

「よっと」

 そのまま手を回して峰に柄を乗せる。身を投げ出し倒立のように全体重をかけた。刀身が長いと重心が崩しやすい。黒鉄くんの身体が傾く。


 ここで終わるかと思いきや、そのまま私を乗せて振り上げた。天井の梁に乗り移る。まさか、軽々持ち上げられてしまうとは。

「うわ、やるねえ!」

「どうもっ!」

 彼が肩に乗せた刀を下斜めに構えるのを見て梁から足を離す。頭上から竹刀が降ってきた彼は驚く。実は足を離すときに梁に立てかけた竹刀を蹴り落した。真上を見上げたところで落ちる竹刀を握り、峰を支えて脳天からおもいっきり叩く。

「痛てぇ!」

「はい、死んだ」


 たんこぶになった頭を冷やしながら悔しさがにじみ出ている黒鉄くん。最初、立ち合った時点で負けていた、とうなだれる。

 剣術を嗜む者には分かる、一種の殺気のようなものがある。それは竹刀での稽古にもあるものだ。師匠お兄ちゃんや周りの仲間たちは《剣気》と呼んでいた。実力を測ることが目的だったので、正直手は抜いていたが挑む気持ちに緩みは一切ない。剣気は姫崎京子の全力だった。

「それに、お前右手を使ってないだろ…。」

「ばれた?昨日ちょっとね。」

 気まずそうな林檎ちゃんに片目をつぶる。包帯の上から手袋をしており、ぱっと見で分からないようなっている。それを外して大丈夫だよ、と元気よく回す。ちなみに、竹刀を持つのは今日が初めてだ。私は真剣で常に稽古していたから。


 怪我を見抜いた黒鉄くん。相手の様子をきちんと見れる。剣術にも問題は無かった。真っすぐな性格を良く表し、静と動が美しい。


 溜息をついた。心がもう黒鉄るかを認めている。


「黒鉄くん。京からも協力をお願いしてもいいですか?」

 苦い顔で返ってくる。

「こっちこそ、よろしく頼む」

 丁度手袋を外していた右手と右手で握手を交わした。

「ごめんごめん、ちょっと力強い。別に痛覚無い訳じゃないから…」

「あ、悪い」


 客間に戻り、二杯目のお茶をいただく。ここからは朱現くん、巴さん、一くん、黒鉄くん改めるかくん、私の5名で話を進めていく。と思っていたが、一人増えそうだ。

「巴さん、京が呼んだ人きたかも。入れてもいい?」

 親指を立てるおじさんを見て、おじさんを迎えに立ち上がった。呼び鈴が鳴る。

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