第6話 すばしっこい猫

「ただいまあ」


 すぐに駆け寄ってくる、黒と白の猫。可愛い。

 この子たちは人斬り時代からお世話になっているお使い猫だ。こちらの意図を理解してくれるし、そこらの人間よりかは賢い。捻りもなく、くろちゃんとしろちゃんと呼ぶので、不満がられている。文を届けてくれたり仲間の危険を知らせてくれたりと、頼れる二匹だ。


 玄関口を過ぎると人間が一人。

「お帰り。…なんだその大荷物は」

「お友達とお買い物した」

「女か」

「うん、可愛い子」

「そうか」

 私の帰宅を待っていた、身長が180を超えている男。斎藤一だ。


 住んでいるのは警察署の近くに位置するこじんまりとした屋敷。特に用意してもらった訳ではないが、自分らで建てた訳でもない。でも持ち家だ。

 家には数人のお手伝いさんがいる。私の帰宅に気づくと夕飯を用意してくれた。私も一くんも料理ができない。生活力が無いのに加え、二人とも忙しい。お手伝いさんがいなければ生活できないのが残念でならない。


 用意してもらった美味しそうな食事を前に思い出し笑いをした。

「今日ね、一炉朱現に会ったんだ。探してたでしょ。抜刀隊に喧嘩売られてたよ」

「どういうことだ」

 少し驚いた表情で状況を尋ねられる。一くんが半年探しても見つからなかったのだから当然だ。詳細を話し、居候している蘭家を近いうちに尋ねるというと、同行したいと言った。


 何故一炉朱現を探していたか。何故一炉朱現が東京に現れたか。その理由は四大人斬りの一角が騒ぎ始めたかもしれないからにある。


 四大の内三名は蘭巴、一炉朱現、そして姫崎京子の元維新志士側である。


 残りの一角は、明治維新の時代にありながらどちらに味方するでもなく、重要人物を斬り続けた《芥》という人物だ。


 四大には《父》《朱》《姫》《芥》という呼称が存在する。通り名であったり本名の一部を取ったものもある。


 芥は名も知れており、当時から有名な噂がある。

「芥は日本が欲しい、でしょ。これねぇ」

 これが只の妄言とも言えなくなってしまったのだ。


 ここ一年、各地で人が死んでいる。明治へ辿り着かせるのに関わった人物たちがだ。幕末の生き残りは各地で要職についていることが多い。そのような者を狙ったいたずらは後を絶たないが殺しは違う。今の世の中では人を殺す術をもてる者なんてのは少数だ。しかも、死に方からして相当腕の立つ人斬りの仕業だそうだ。


 そして四大に容疑がかかる。


 蘭のお父さんは45歳ぐらいだっただろうか。人は斬れるが率先して犯罪を起こすなんてのは考えられない。私は一くんのおかげで疑いを晴らした。その時期ぐらいから同居していたから。となると残りは朱現くんと芥になるわけだ。芥の面識は私にはないが、朱現くんにはあるというのもまた一つ。影を纏い続けた芥と関わりがあるのは、政府としては恐ろしいだろう。


 そうして私たちは朱現くんを探すに至る。


 ご馳走様でした、と料理をしてくれた家政夫さんに伝える。さあ、誰の思惑が動いているのか 。

「そろそろしっぽが掴めるかもね?」

「さっさと捕らえるぞ」

 食後の二人の煙草に火が付いた。その周囲を二匹の猫が追いかけ合っている。

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