第7話 終末の果て

『オペレーション・ジャガーノート発令! 繰り返す。オペレーション・ジャガーノート発令!』

 機械的な声が耳朶を打つ。

 リリアの機体『ジャガー』と大熊の乗る『アイテム』が発進する。

 宇宙戦艦『ジーニアス』。

 その背後から迫り来る戦艦が一隻。

 俺が敵艦ジーニアスの後ろからバイオネットで接近する。

 ヘルメット内に呼吸音がこだまする。

 戦いだ――。

 俺はハンドガンを引き抜き、狙撃を行う。

 火月が乗るダークフィザードも同距離から狙撃を行う。機体はバイオネットのバイオフィルムをコピーし、チューンされている。

 最強のLiONたちによる狩り。

 それが実現してしまったのだ。

『ちっ。死ね死ね死ね。俺様から逃げられると思うなよっ!!』

 火月は連射し敵兵器を次々と壊滅させていく。

 バイオネットは近距離戦闘用魔導工学兵器だ。

 ダークフィザードのコンセプトとはまったく違う。

 どちらかと言えば接近してくる敵機を排除することにある。

 切り込み隊長としての力もあるが、今回は後方支援に回された。

 同情している節があるからだ。

 俺がもっと強ければ……。

 同情などせずに切り捨てることができれば、そんなこともなかっただろうに。

 警告音が鳴り響く。

『なんだ!? あいつ。俺様の攻撃をかわしやがった!』

 火月がうめく。

「あれは……」

 リリアだ。

 直感がそう言っている。

 俺はダークフィザードの前に出る。

 琥珀刀を引き抜き、対峙する。

『やめろ。内藤。私は戦う気はない!』

 リリアからの無線を傍受する。

「だったら、投降しろ。悪いようにはしない」

『分かってもらえると思ったね。あんたは優しいから』

 リリアはそう言い、機体外部に接続されたミニガンが火を噴く。

 シールドを展開させて銃弾の雨から守る。

『内藤だって、わかっているのね。だって、この世界は――』

「言うな!」

『さがれ、内藤!』

 火月の言葉に耳を貸すと、俺は即座に回避行動をとる。

 後方から飛んできた銃弾がミニガンを破壊する。

『てめーがやらねーなら、俺様がやる。引っ込んでいろっ!』

「……話をさせてくれ」

『何言ってんだ! 話しても分からないから、敵になんだろ!』

 小さくうめくと、後方から爆発音が鳴り響く。

「艦が!」

 俺はそちらに向けてバイオネットで駆け出す。

「大熊かっ!?」

 俺は魔導無線回線を開き、敵機に声をかける。

『内藤か!』

「なぜ、スパイなど……!」

『今の政府は間違っている。力で制圧しようなど、旧世紀以前の戦いと変わらん!』

 大熊の機体は艦から少し離れる。

『人は知恵を活かし、進化せねばならないのだ!』

「進化……?」

 俺は大熊の言葉が飲み込めずにオウム返しをしてしまう。

『ああ。これでは戦い続ける歴史が繰り返すばかりだ。人の話を聞き、哀しみをなくしていかねばならない。そのために生きてきたのだ、人は、世界は!!』

「そんなこと!」

 ハンドガンで大熊の機体に向けて発射する。

 大熊の機体は装甲の厚い肩や膝で受け止める。

『変わらねば、世界は救われぬ!』

 大熊は大声を上げて、アサルトライフルを向けてくる。

 ロックオンされると、銃弾が魔法陣から放たれる。

 銃弾をシールドで受け止めると、俺はハンドガンで応射する。

 回避しきれなかった銃弾が大熊の機体のエンジンを貫く。

 爆炎に呑まれ、大熊の生体反応が消える。

「あ、あぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁあ……」

 俺は言葉を失い、死を悼む。

 壊してしまった命の重さを感じ取り、身体が裂けるほどの痛みと混乱をもたらす。


 火月は脚部にあるアンカーを射出する。

 そのアンカーはリリアの機体の腕部を穿つ。

 本来、狙撃用に身体を固定するアンカーが攻撃用として使用された珍しい例である。

『てめーらのせいで妹はっ!』

 接近しつつ、狙撃銃を放つ火月。

 切り込み隊長をやっている雫が戦線を大きく二分させていく。

 これでは反政府軍は負けてしまう。

 そう感じ取ったリリアは機体を反転させる。

 どのみち被弾したのだ。

 帰るしかない。

『逃がすか!』

 火月は執拗にリリアを追う。

 リリアは驚くべき機動性で火月の狙撃をかわし、振り向きざまに応射。

 銃弾が火月の機体の右側面に被弾。

 バランスを失ったところに、リリアの僚機が銃弾を浴びせる。

 ダークフィザードはコクピットを残し、大破する。

『撤退しろ。火月』

 無線に混じりそんな言葉が聞こえてくる。


 雫はハンドガンを連射し、敵機を沈めていく。

 だが、周りは敵だらけ。

 このままではやられてしまう――。

 雫の焦りを感じ取ったのか、敵LiONが攻めてくる。


「死ぬのはダメだ。俺はまだみんなを失いたくはない……」

 俺の思惟に同調するようにバイオネットのバイオフィルムが呼応する。

 機体外部にMMPを放出する。


 世界を、人類を守りたかった。


 だから俺は軍人になった。


 守るためのつるぎ


 もう誰も失いたくないから――。


 光の奔流が、戦場を、世界を呑み込む。

 熱く、心を溶かしていくような光。


 それが収まる頃には、全ての人類が戦闘を止めていた。


 バイオネットの放つ高濃度のMMPは世界を変えた。

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魔導工兵器LiON ~世界は歪んでいる~ 夕日ゆうや @PT03wing

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