色欲の女神。我は男を侍らせる者なり。俺は女神に抗い、世界を守ってみせる。

夕日ゆうや

転生勇者、女神と戦う。

 俺は死んだらしい。

 夢うつつな、まどろみの中から意識を引き寄せる。


 ……と。

 目の前に白いテーブルと椅子が現れる。

 周囲は深い闇に包まれているというのに、そこだけが白い。

 そしてふわりと舞い降りた少女が一人。

「よく来た。転生者よ」

「……どういうことだ?」

 警戒心を強める俺。

「お主は死んだのだ。我に従ってもらおう」

「なにを!」

 目が光に馴染んできたのか、目の前にいる少女の姿が浮き彫りになる。

 金髪碧眼。編み込まれた髪は胸のあたりまで伸び、全体的に華奢な身体つきをしている。

 肌は白く透明感があり、きわどい衣服を身に纏っている。

「どうした? ちこうよれ」

 その言葉の引力に惹かれて、俺は前に足を踏み出す。

「いい子だ。我の胸に飛び込んでおいで」

 俺はその垂涎ものな単語に我慢できず、また一歩踏み出す。

「お、俺は……」

 ダメだ。

 このままでは奴のペースにのせられてしまう。

 俺はまだ死にたくない。

 生きていたい。

 生きて、りんと添い遂げるのだ。

 だが、その吸い込まれるような天性の瞳と、俺好みの美貌には目がうつろぐ。

 まるでこの世の知性を集めたかのような瞳には近寄りたくなる気持ちが湧いてくる。

 ダメだ――。

 俺は自分の手のひらを爪でひっかく。

 滲んだ血と、痛みが色欲の魔女をかき消す。

『ほれほれ。我を忘れることなどできない。一緒にくるのだ』

 遠くから頭の中に響く声。

 心に届く声。

「なんだ。貴様は!?」

『ふふ。我は色欲の女神ラスト。お主の心の中に住むもの』

 光は急速に消えていき、闇の中に戻っていく。

 俺の無意識領域から追いだしたらしい女神は、精神世界から意識を取り戻していく。

 目を覚ますとそこはベッドの上だった。

 周囲を見渡すと、ケーブルやチューブにつながれた俺。

「ここは……?」

あつし!」

 声を荒げる凜。

「ああ。もう!」

 凜が抱き寄せるが、傷口が痛む。

「もう。バカ! どれだけ心配させれば気が済むのよ!」

「わ、悪い……」

 凜の顔を見てホッと一息吐く。

 やはり身の丈に合う美少女がいるらしい。


 ざざっ。


 ――我は消えぬ。お主の心に住むもの。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

色欲の女神。我は男を侍らせる者なり。俺は女神に抗い、世界を守ってみせる。 夕日ゆうや @PT03wing

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ