第2話 それがいやなんやて!

 「なんで、服、交換するなんて言うたん?」

 帰り道でわたしが倫恵ともえにきく。

 優等生でお嬢様の倫恵に対して、わたしは庶民の娘。成績も中ぐらい、自分で言うのもなんやけど、行いはよくない。べつに悪いことはしてるつもりはないけど、すぐに口論する、ケンカする。もうひとつ、お調子者ですぐにふざける。一日に一回は先生に

「こら、入来いりき! 静かにしろ!」

と名指しで怒られる。一週間に一度しか来ない科目担当の先生にも、一学期の前半で

「あんまり授業中うるさいから名まえ覚えてしもうたがな」

と言われたほどだ。

 目立ってはいるけど、悪目立ち。

 そのわたしと倫恵が、「いりきさちこ入来幸子」と「うえとともえ植戸倫恵」で、五十音順に並んだときに隣どうしだったので、友だちになった。

 気性はぜんぜん違うけど、なぜか気が合った。

 いや。

 倫恵は、クラスのまとめ役としてはめったに見せない気の強いところや、クラスのまとめ役としては絶対に見せないわがままなところを、わたしに対しては見せてくれた。

 この子、こんな子やったんや、と思うと、この子、好き、という気もちがさらに大きくなったけど。

 「だってなあ」

 「なあ」の後ろのほうを上げて、倫恵が言う。

 「わたしの服て、ピンクのばっかりやん」

 思い出してみれば、そうやった。

 スカートは紺とか黒とか、カーディガンは紺とか白とかのときもあるけど、シャツはだいたいピンク。

 いま着ているのもピンクのセーラー服で、上下お揃いだ。

 倫恵がこれを初めて着て来たとき、わたしは、セーラー服というのは中学校や高校の制服以外にはない服だと思っていた。

 セーラー服に「お姉さんが着る服」のようなあこがれも持っていたと思う。

 だから、

「倫恵って中学校に行ったらこれ着るの?」

ときいたら、

「中学校の制服とは違うよ」

と倫恵は答えた。迷惑そうな言いかただったので

「セーラー服てどういう仕組みになってるのか、ちょっと見せて」

というのはやめにした。

 そんなことを思い出して

「そうやなあ」

とわたしは言う。

 「でも、倫恵には、ピンクの服、よう似合うてると思うよ」

 おしとやかで、でも元気そうなところもあって。

 ところが、倫恵はそこで声を高くした。

 「それがいやなんやて!」

 わたしは倫恵の顔を見た。

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