或る高校文芸部の日常 ~芸能界の黒い噂は汚物で消毒だ編~

於田縫紀

黒い話

「さて、今回のKAC2024、第7回のお題は『色』だ。これについて君達はどう思う?」


 部長の眼鏡がもったいぶった感じでそう尋ねる。


 俺としては『色』と聞くと、百人一首にも出てくる平兼盛の歌が真っ先に出てくる。


『しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで』


 あとは小野小町のこんなのも。


『花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに』


 ただこれで物語を描くとなると、ガチ恋系統になってしまう。

 そこはどうしたものか……

 そう俺が考えているとだ。


「『色』は難しいですけれど、色のうち『黒』ならついこの前、ちょうどいい出来事があったんです」


 1年の井狩がそんな事を言う。


「ほう、どんな話だ」


 部長も興味を持ったようだ。


「ついこの前、ネットを見ていると、『話題騒然! 芸能界のこれ以上に無い黒い噂!』なんてポップが出ていたんですよ。どうせ広告だろう。わかっているけれど、ついポチっちゃったんです」


 俺は芸能関係に興味は全く無いが、井狩はそうでもないらしい。


「ほほう、それで」


 部長もあまり興味無げに合いの手をうつ。


「そうしたら、やっぱり広告のページだったんですよ。『あの松崎しげるも愛用か! 超高性能日焼け機タンニングマシン!』の」


 うっ、そう来たか。

 確かにこれ以上にない黒い噂だ。

 黒い噂の意味が違うし、そもそも単なる広告で、そんな噂なんて無い、ただのデマなのだろうけれど。


「それで、その話はそれで終わりかね」


 部長にも結構受けたようだ。

 平静を装ってそう尋ねているが、声色がいつもより半オクターブ高い。


「いえ、ついでだからどのくらいのマシンなのか、性能を見てみたんです。そうしたらUV-AだけでなくUV-Bや、UV-Cまでバリバリに出ている極悪性能で」


 おい待った、その日焼け機タンニングマシン


「完全にアウトだろう。日焼けじゃなくて皮膚がん発生器だぞ、それじゃ」


 UV-Aならサンタンと呼ばれる日焼けを起こす程度で済む。

 しかしUV-Bだとサンタンではなくサンバーン、ぶっちゃけ火傷状態になってしまう。

 さらに凶悪なUV-Cは、まあ俺が言った通りだ。

 Wikipedeiaには『強い殺菌作用があり、生体に対する破壊性が強い』と記されている。


「ええ。間違いなく日本の安全基準には不適合だと思います。ただ安かったし、汚物の消毒には使えそうなんで、ついポチっちゃったんですよね」


 ふむふむ。なるほど。しかしだ。

 

「でもそんな危険な紫外線で消毒しなければならないようなものなんて、井狩君の家にはないだろう」


 そう、部長が言う通りだ。

 そう俺が思ったところで井狩の奴、邪悪な笑みを浮かべやがった。


「ええ。だからこの第二会議室に備え付けて使おうと思っています。具体的には部長が持ってきた本とか、部長が触れた本とかに……」

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或る高校文芸部の日常 ~芸能界の黒い噂は汚物で消毒だ編~ 於田縫紀 @otanuki

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