(祝3500PV)宝世界

すぱとーどすぱどぅ

プロローグ

 ――ライネル。



 遥か昔から、ヒューマン、ドワーフ、そしてエルフが住む王国。


 高い石の城壁に囲まれ、強固で堅牢な国。


 この国は、ある一種の天災から世界のあらゆる国から注目されるようになった。




“ゴツン”


「いった!!」


「こら、クロウ!寝てるんじゃありません!」


 クロウが目を上げると、そこには歴史の先生のマルスが、分厚い本を開いて立っていた。


「すいませーん」


 そんな間延びしたクロウの声に、マルス先生は目を鬼のようにして怒る。


「せんせーい。いいから続きしましょうよ」


 そう、窓側の一番前の席の男の子がいった。



 ――ミレだ。


(さんきゅ。ミレ)


 そう目くばせすると、嬉しそうにミレがうなずく。


 ミレは、クロウの幼馴染で、今までもずっと仲良くしてきた親友だ。


「コホン。ではクロウ、そんなに退屈なら答えてもらいましょう」


 マルス先生は、いつの間にか教室の前まで戻って、分厚い本を手に持ったまま、こちらを見ている。


「50年前の天災について、まとめて話しなさい」


「はい」


 クロウは立ち上がり、あのとき起こったとされることを話し始めた。



「天災は、50年前に起こったとされていますが、正確な日付は分かっていません。


 ただ、みんな気が付いたら国の真ん中に大きな木が生えてきたと書いています。」


 クロウは窓の外に目をやる。



 街の真ん中に生えている木。


 ジュエリーボックスと呼ばれるあの木はまさに宝石箱だ。



「続きをどうぞ」


 どうやら、クロウの説明はマルス先生の及第点を超えていたみたいだ。


「大きな木、ジュエリーボックスが生えてきた場所には王城がありました。


 なので、王たちを木の中から救出すべく、国民は武器を手に木の下へ向かったといいます。


 国民たちが木の下へつくと、そこには大きな木の扉があり、口を大きく開けて開いていました」


「これが、ドアですね」


 マルス先生からの注釈が入る。


「ドアから中へ入って奥へ進むと、そこには無数の宝箱が置いてありました。


 それを開けた日。私たちに天災が訪れました。


 最初に宝箱に気が付いたのはヒューマンでした。


 ヒューマンの男は宝箱を開け、中から宝石を1つ見つけました。


 次にドワーフの女が宝箱を開け、中から金貨を1つ見つけました。


 そして最後に、エルフの男が宝箱を開けると、中からはおびただしい数のモンスターが現れました。


 モンスターは国に放たれ一夜にして火の海となりました」



「結構です」


 マルス先生の居眠りいびりもようやく終わり、クロウは椅子に座る。


「こうして、火の海になった王都は一時壊滅しました。しかし、そこから私たちの国は見事に復興を遂げたのです」




 こうして授業は終わったのだった。



「クロウ、お疲れ様。また寝てたね」


 授業が終わって、マルス先生が出ていったの確認してから、ミレが声を掛けてくる。


「まあなあ。昨日は伝記を読み漁ってたら、朝になってたんだよ」


 ふああ、とあくびをしながら答えた。


「それってもう今日なんじゃ……。まあ、いいや。けどいよいよ今日だね!」



 ミレは机をバンと叩くときらきらした目でクロウを見る。


「ドアの開放日!!」


 ――そう。


 今日、ドアが50年ぶりに開かれる。


 中に何があるのか分からないため、開かれてこなかったが、先発隊の確認である事実が発覚し、状況が変わった。



 それは、中には宝箱しかないということ。


 モンスターはいなかったということだった。


 その事実が分かって数年、国としてのルールが決められ、ようやくドアの開放するのが今日なのだ。


「だけどなあ、利潤の8割を国に取られるのはおかしくないか?」


「しっ」


 ミレが慌ててクロウの口を押える。


「なにやってんのさ。国を悪く言うのはまずいよ」


「けど、いくら何でも、8割って」


 50年という短い時間で復興が済んだのにはからくりがあった。


 それは、他国からの絶大な支援。


 あの日、ジュエリーボックスでヒューマンが見つけた宝石は、純度が高く、大きな宝石だった。


 そんなものが、たった一つの宝箱からでると分かった他国は我先にと復興という名の買収を仕掛けてきたのだった。



 こうして、借金まみれになった国は、ジュエリーボックスから得た利潤で国の借金を返済しようとしているのだった。



「ほら、いくよ。どうせ今日は、入れないだろうけど、並ぶんでしょ!」



「まあな」


 クロウは、ミレに引っ張られながら、ドアへつ続く中央通路へ向かった。









「こりゃすごい人だな……」


 見渡す限りヒト、ヒト、ヒト。


 住人は多かったけど、祭りでもこんなに集まらない。


「うわあ、すごいね」


 ミレもクロウの隣で目を輝かしている。


「あ、キッシュじいさんだ。おーい」


 ミレはいつもお世話になっている爺さんを見つけ話にいった。




「あそこに俺の母さんと父さんがいるんだな」


 クロウはそうつぶやく。



 クロウの両親は、先発隊として入り、戻ってこなかった。


 生死は不明。


 ただ、その日になっても戻ってこなかったこと、食料も尽きていることを鑑みて、殉職扱いとなった。



「おーい。クロぉ~」


 ミレが呼んでいるので、石垣をまたぎ、下に降りていくと、キッシュ爺さんとミレがいるのが見えた。


「どした?」


「あのね、一番前の人たちはもう1か月以上前から、あそこで野営してたんだって!


 今、じいちゃんから聞いたの!」


「知ってたよ」


 クロウは驚かず、ミレに返す。


「知ってた!?」


「ああ、俺はこの日をずっと待ってたんだ。学校さえなければ、俺だって並んでたよ」



 そう、俺だって並んでたかった。


 だけど、学校に行かずに、不者認定を受けたら住む家も食べ物も何もかももらえなくなってしまう。



 この国では、殉職した親をもつ子供は一定の援助が受けられる。


 ただ、それには条件がある。


 学校に必ず通うこと。


 熱を出そうが、骨が折れようが、一日でも行かなかったら不者扱いとなる。


 すると、今までもらえたものが何一つもらえず、エルフと同じ扱いを受けるのだ。





 エルフ。


 ライネルのヒエラルキー最下層。


 エルフは50年前、モンスターを国に解き放ったとして、種族ごと奴隷となった。


 そんな彼らは、今もぞうきんのような扱いを受けている。


 あれを見てしまうと、どうしても学校に行かない選択はできなかった。


「また、明日学校あるもんね……」


 ミレも殉職者の子供だ。


 クロウたちはあと半年、学校に行かなくてはいけない。


「けど、半年の辛抱だ。半年したら、俺だって、ジュエリーボックスにもぐってやる」





 半年後


























 ご覧いただきありがとうございます!


 今までとはちょっと雰囲気を変えたものを書かせていただきました。


 かなり、これから忙しくなるので、ゆっくり、こちらの作品でも読んでお待ちください。


 ちなみに、この下の2作は本気で書いてます。


【スキル使用可】リアル脱出ゲーム

 https://kakuyomu.jp/works/16817330667075076884


 まさか転生してもゴミ箱人生だとは思いませんでした!今度は無双して、立派なゴミ箱になってやる!

 https://kakuyomu.jp/works/16818023213859296848

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