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前述の通り、フェアリードは魔法が主体の世界でそれが使えない少年をメインとした学園漫画である。
人はそれを時に、思春期の成長物語とも言うし、現実世界とはまったく違うファンタジーのコミカル作品とも捉える。
俺の感覚上はどちらかというと前者の方であり、記憶している最新話は物語の終盤……佳境であり、主要キャラクターたちは大小様々だが登場初期に比べれば明らかに成長をしていた。特にビズは今でも言葉を発する毎に卑下してしまうが、ここ最近のビズが登場する回数はそういった場面が少ないように思える。貴族出身にも関わらず、兄たちや両親にも魔力が低いことで迫害され自己肯定感が低い彼、それでも作中、一番著しい成長を遂げたと俺は認知している。
……そう、何が言いたいかというと。思い出してしまったのだ。
「――っ。はぁ、はぁ、はぁ……」
ベッドから飛び起きる。いや、正確には起き上がったのみで激しい息切れを繰り返しただけ。
睡眠中、情景に浮かんだ姿……或いは、原作で起きた出来事――学園全体の死を。
「まさか……?」
確証はない。それでも俺は記憶している、してしまっている。
無料漫画アプリで連載中『フェアリード』の最新話が何者かによって、学園を支配して上空から禁忌魔法を発動させて破滅へと導く
「くそっ……どうして、こんなことを」
思い出してしまったのだろう?
……いいや、むしろ思い出した方が良かったのかもしれない。幸いにも、その
「……ルドルフたちに同行する」
そう、そうだ。学園内で禁忌魔法の手に掛からなかった生徒が数名存在する。その中で真っ先にあげられるのはルドルフ、ビズ、ルーカス、アッサムの新入生。通称、ルドルフ陣営の四人。彼らは物語の関係で学園から離れており、禁忌魔法の被害には遭っていない。……そして、恐らく次回の話で絶望する。
「……っ」
お察しの通り、言い切れないのは俺がこれ以上の内容を知らないから。物語の最後も、ルドルフたちの反応も、これから出てくるであろう主体の生徒たちの生存も。それから、禁忌魔法を発動させた人物の正体も。
「……はは。一難去ってまた一難ってやつ?」
違うか、そもそも何も解決してないし。……ただ、流されるまま時間を送ってるだけ。これまでと、現実世界に居た頃と何も変わってない。
乾いた笑いが部屋に響く。
とにかく、せっかく第二の人生を謳歌しようと決めたからには破滅エンドを回避したい。そのためには……。
「――ルドルフたちと同行を、する?」
首を捻り、自身が出した回答に誤りがないか一度確認。当然、それを採点する人間はいないが……自然と不正解だとは思わなかった。
「あああああっ……!」
今自分は、これまで身に覚えの無いくらいには苦い顔をしているだろう。
自身が暮らして居た場所とは違う、異世界であること理解して。使ったことも無い魔法を人に向かってぶっ放して、おまけにバッドエンド真っ直ぐの内容さえも思い出してしまった。
そもそもの話、どうして俺はこんなにも物事をすんなりと受け入れているのだろう。……まるで、異世界転生ものの主人公みたいな。
「いやいやいやいやいや……俺が?」
現状、そういった証拠が揃ってしまってるわけだがまだ色々信じ難いことは多い。
嗚呼、わからないことだらけで頭がパンクしそう。
「……まあ、寝よう」
結論はシンプルに。
打開策の案が簡単に出ない以上、唸って、貴重な睡眠時間を妨害してしまうのは惜しい。
俺は再び横になる。不安と混乱に押し潰されそうになりながらも、俺は無事睡魔へと落ちていった。
魔法がすべての世界で魔法が使えない主人公をバカにするモブAに転生しました おおいししおり @oishi_shiori
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