登山家と大空翔ける鷹

豊かな自然と険しい風

地面の砂利を踏み締めて

登山家の男は雄叫びをあげる

その日、彼は最も高い山を登頂した


その達成感に、浸っていたが

束の間

ふと、気づいた


山頂から見渡せば、

いつくか、山が見える

ただそのどれも

私は登った、登ってしまったのだ


では次は?


男は気づいた

次に登る山がないことに

達成は、目標の欠如と同義だということに


登山は彼のアイデンティティだ、そしてだった

今、登る山を失った彼に何が待ってくれているのだろう


待ち人は誰もいないだろう

それに、男は気づいてしまった


ここにいても意味などない、なくなった

そう思って、バッグを背負い直して

絶望に帰路へ向かう


その時だ


キーと鳴く鷹が

その大きな羽をはためかせて

視界を、大空を、雄大に横切った


ふと目を奪われる


その後も注視して、鷹を見る

急降下してみたり、風を翼に受けて舞い上がったり


彼は思った

この鷹は自由だな、と

そして目が離せないでいた

なぜだか


そして近くにいた鷹も

彼方へ飛んでいってしまって、小さくなった

あの鷹はどこへいくのだろう

そして何のために

彼の翼ならどこへでも行けてしまうのに


男はもう一度、岩に腰をかけてみて

考えた、なぜ自分の道が見えなくなったかを


あの鷹は自由だった

そしてその姿に、ある種の憧れを感じたのだ

私と何が違うのだろう


あの鷹は、大空を舞う

何にも縛られずに


一方で、私はどうだろうか

目標を達成した私は、登る意味を失った


能力ならあの鷹も同じだ

彼の翼ならどこだっていける

では違うのは?


ここで、彼は気づいた

自らの未熟に、愚かさに


私は登る意味を失ったのではなかった


自ずから、無くした

閉ざしてしまっていたのだ

登る意味がないと、自ら決めつけて

自らに枷をつけて、可能性を潰して


そう、あの鷹は自由

だから彼の飛翔は、誰にも止められない

その彼の姿に、男の目指す姿があった、目標があった


意味というのは

無くなるとか、失うとか

そんなものではなくて


意味というのは

自らで見出す、生み出す

作り出せるものなのだから


男は帰路につく

だが、瞳の色は変わった

それで見渡す山々は、

なぜだか綺麗に見えた

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どこ吹く風 終わったヒト @owattahito

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