第5話 5歳児には早いご褒美だった
ヴェンを叱咤激励したあとも、村の子供たちからのいじめは続いていた。
だが、ヴェンはおれの言ったことを守って無視し続けた。そして、おれであるアイリーンと妹のエミリーと遊んでいるときにはいじめられているという事実を見つからないように明るく振る舞い。ロクサス家からの帰り道にいじめにあっても気丈に振る舞っていた。そういう男の子は応援したくなる。すぐにあきらめていた、無難な道ばかり選んでいた前世での自分と正反対の男の子を。
そして今日もいじめはいつも決まってロクサス家からの帰り道、屋敷からちょうど見えなくなる雑木林の小道の中で始まっていた。ヴェンを魔力で感知し、魔術を起動し視認する。
「姉さまなにしてるのー?」
無邪気な笑顔で近づいてくるのは我が妹のエミリー。肩まであるつやつやした赤茶色の髪、おっとりした雰囲気、少したれ目で優しい表情の我が妹。可愛い、最高すぎる。
「エミリーちょっと後ろ向いて」
「えぇー? なにしてるか聞いただけなのに」
そう言いながらも後ろを向くエミリー。おれは視界に入ってきたぷりっとしたおしりを鷲掴みする。
「姉さまこんなことしてなにが楽しいの? いつも笑ってるけれど」
「ぐへっ。合法最高」
同姓の姉妹は最高である。
「ゴウホウサイコウ? それで姉さまなにしてたんですか?」
「あっ! 忘れてた忘れてた。ヴェンの帰り道を監視してたの」
「ヴェンの? もうヴェンの姿なんて木がたくさんあってもう見えないよ?」
「魔術を使ってるの。ヴェンの魔力を感知していまヴェンの周りを視認する」
「姉さまむつかしくてわからない」
しっかりと話すことが出来ないエミリーは可愛い。そしてまだ幼すぎておしりを鷲づかみされることに嫌な顔一つせず、意味合いも理解せず、されるがままのエミリーは最高だ。
もし、心の中が読まれるようなことがあればおれは捕まると思う。
「ようはね。ヴェンのことを見守っているの」
「姉さまヴェンのこと守ってあげてるんだ! しゅごい!」
「守ってるか・・・・・・。どうなんだろ。わたしは見てるだけなんだよね」
「でもヴェンのこと守ってるんでしょ? 助けにいくんでしょ? 姉さまはなんでもできるもんね!」
無邪気に笑うエミリー。おれと話して満足したのか、パタパタと部屋からでていく。おれはヴェンの傷をみて、何が起こっているのか確認した。そしてわかった。ヴェンが村の子供からいじめられていることを。まだ魔術に関しては未熟なこともあって視認する魔術も完全ではない。見ることはできるが、声まで聴くことはできない。魔術としては
ということでまだまだイメージが足りていないのであろう。遠くのものを見ることと、声が聞こえるという事実を自分の中で想像しきれていないから声が聞こえてこないのだ。まだまだ修練が足りない。
あれこれ考えているうちに、普段なら石を投げつけるだけで終わっていた村の子供たちがヴェンに近づいてきていた。体格は明らかにいじめている子供たちが大きい。主犯格の子は成金ぽっちゃり野郎のような風貌、そして取り巻きの気弱そうな、主犯格の子供がいれば強くにでてくるまさにモブキャラを体現したような細身の二人。
ヴェンは石を投げつけられても無視していた。おれが言ったことばを守っているからなのかわからないがヴェンは石を投げつけられたぐらいでは動じなかった。いつもならこの無視していればいじめっこたちは飽きてさるのだが、今回はどんどん距離を詰めてくる。ヴェンはそれでも無視歩き続ける。主犯格のぽっちゃりがなにか叫ぶ。
さらにじりじり近寄ってきている。少し嫌な予感がした。どんどんヴェンに近づき、そしてとうとういじめの主犯格だと思われる子供が急に走り出し、ヴェンにとびかかった。
主犯格の男の子はヴェンに馬乗りになって殴り始めた。ヴェンは自由を奪われているため、拳で右に左に殴られ続ける。身動きが取れず、ただただ殴られる。主犯格の子供は一切手を緩める様子はない。手で顔を守るヴェン。もういじめではなくリンチの様相だった。無抵抗の者に一方的に振るう暴力。あまりの横暴さに取り巻き二人が躊躇し始めている。
【姉さまはヴェンを守ってあげてるんだ】
エミリーの言葉が頭を反復する。いままでのおれはどうしてた? ただ眺めているだけか? 自分にも不利益がきてしまうかもしれないからと何もしないのが一番いいのだと自分で自分を納得させる言い訳ばかり考えて、動いていなかったのではないだろうか。
・・・・・・せっかく転生したのだから、やってやろうじゃないか!視認の魔術を止め、家を飛び出しヴェンのもとへ走りだす。走りながら詠唱する。
これでいじめっ子たちに近づいても自分から発せられる音は聞こえることはない。レイピアを鞘にいれたままいじめっ子たちとどんどん距離を詰める。ヴェンに夢中でおれには全く気付いていない。馬乗りしているすぐ後ろに到着し、すぐに鞘に入ったレイピアを主犯格の子供めがけてフルスイングした。
バチーッン!
空気を切り裂く音ともにレイピアがジャストミートする。ヴェンに馬乗りになっている子供が突然ふっとぶ。
「えっ・・・・・・」
「大丈夫ヴェン? 少しの間、見ていたから事情は説明しなくていいわ」
主犯格の子供はふっとばされるも腰をさすりながらゆっくりと立ち上がり、こちらに目を向ける。
「痛ってぇ。誰だよ! って、げ、アイリーン様。こっこれにはわけが・・・・・・」
「言い訳無用。一方的に暴力をふるうなんて許さない。私たちと遊んでるからオースティン家は優遇されているとかそんな理由でしょ。見てたからわかるし、たとえ理由が本当にあったとしても無抵抗な子を殴り続けるのはただのいじめだよ。やられた分やり返すよ」
これから何をされるのかわからない恐怖で後ずさりするいじめっ子たち。
「に、逃げるぞ!」
主犯格の子供が一目散に逃げだし、それに続く取り巻き。逃がすものか。小さい声で、だがしっかりとイメージし逃げている子供たちに手を向け詠唱する。
「火を灯せ《ライト ア ファイア》」
手の周りからどこからともなく火の粉があらわれ、その子供たちのおしりめがけて飛んでいく。
「あっち、アッツいよぉ、ママーーー」
おしりに着弾した火の粉は服だけ燃やし、おしりが丸出しになったところで消える。いじめっ子たちは泣きながら雑木林を駆け抜けていった。やはり魔術の起動にはイメージが重要で詠唱自体に意味はないのかもしれない。これまで声量によってかわるのかどうか色々試してきたが、詠唱はあくまでも魔術を起動すためのイメージ増幅の補助ツールなのだ。
うだうだ魔術について考えているとヴェンが急に抱き着いてきた。
「ありぃがどう」
鼻水を垂らしながら垂らしながらおれの胸の中で涙をぬぐう。まだおれはつるペタだから君を満足はさせられない。申し訳ない!ならば・・・・・・。
「ほらよしよし、元気が出るまじないをしてあげよう」
頭をなでていた手を離し、ヴェンの前に立つ。そして勢いよくスカートをたくし上げ、パンツを見せつける。ヴェンの涙はとまっていた。
「男はこれで元気になるものでしょ?」
ぽかんとしているようなヴェン。涙が止まり口が開いたままである。
「なにしてるの。パンツ見たら元気になるものなの?」
あまりの衝撃にたくし上げていたスカートから手を離してしまう。一歩後退する。開いた口がふさがらない。
「五歳だってエロに興味はあるんじゃないのか・・・・・・」
おれが五歳のときには幼稚園の同級生の女の子のパンツとかみて興奮していたのに! これが異世界ってやつか!
「でも、なんだか元気が出た気がするよ。ありがとう。それよりもアイリーンはやっぱりすごいね。僕たちより大きい子だったのに仕返しちゃうんだもん」
よくわからないがヴェンを励ますことはできたのでよしとするか・・・・・・。
「ヴェン、ただじっと我慢することも時には必要だけれど、その時の状況をみて行動を変えることも必要よ。今回は助けにはいるのが遅れちゃって申し訳なかったけど」
「アイリーンに無視してれば大丈夫だって、いじめっ子が現れたとしてもそんなの無視してれば大丈夫だって言われたから無視してたけど、ダメだった」
「石投げられてるくらいだったら無視してればいいんだけどね。今回はとびかかってきそうな雰囲気だしてたから、走って逃げたり、うちに戻ってきてもよかったかも」
「フインキ? そんなのわからないよ!」
五歳児というのは本当に正直なのだ。おれが異世界転生してきたのだなと実感する瞬間であった。それでも男の子には心得を説くことは重要であろう。
「ただ教えられたことを実践してもダメなの。教えられたことを元に、その場の状況に合わせて考える。相手がどんなことを言ってきているのかとか、自分までの距離がどれくらいなのかとか」
「全然わからないよ」
「要は相手のことをよく観察するってこと。まっこの村にいる間は私がヴェンを守るから大丈夫。安心して!」
エミリーのためにもおれはアイリーンとしてヴェンを守ろう。
あとパンツはまだ5歳児には早いご褒美だったな。
幼なじみ(男)に告白されたのはいいけど、私(女)の中身は35歳のおっさんですが? 古希恵 @takajun
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