とりどり

JEDI_tkms1984

とりどり

「トリ、会えずか……」

 彼はすっかり落ち込んでしまった。

 幸せの象徴である青い鳥を一目見ることができれば、それだけで幸運が舞い込むかもしれないと。

 不幸せだと思い続ける毎日が、ほんの少しでも好転すればと。

 淡い望みを抱いて町中を探し回ったが、幸せはとうとう見つからなかった。

「ああ、オレはなんて不幸なんだ」

 こんなことを呟いてしまう日々と決別したいというのに――。

 肩を落とし、とぼとぼと通りを過ぎる。

「ん……?」

 そこで見つけたのはペットショップ。

 ガラスの向こうの仔猫と目が合う。

 彼は立ち止まり、しばらく考えた末にショップに向かった。

 ここなら犬や猫はもちろん、たくさんの種類の鳥がいるだろう。

 青い色をした鳥だって見つかるにちがいない。

 だからこそ彼はペットショップは捜索場所から除外していた。

 鳥カゴの中で飼育されている青い鳥に出会っても、それは”見つけた”とは言えない――と考えていたからだ。

 商品として展示販売されている鳥ではなく、外にいる鳥を……という妙なこだわりだ。

 しかしその信念も今はポキリと折れてしまっている。

「いらっしゃいませ。どんな子をお探しですか?」

「あ、ええ、トリを。トリが見たくて」

 店員は彼を案内した。

 鸚哥、文鳥、梟、嘴広鸛……さまざまな鳥がいた。

 真っ白な文鳥、うすいピンク色の背羽、燃えるような赤い尾羽、黒色と灰色が混ざりそこねたような羽衣。

 どれも個性的で美しい。

 だが青い鳥はいなかった。

「ご期待にそえず申し訳ございません」

 店員は消え入りそうな声で言ったが、彼の表情はどこか晴れ晴れとしていた。

「いえ、お気になさらず。素晴らしいものを見せてもらいました」

 はずんだ声でそう言うと、彼は来たときは別人のように溌溂とした様子で店を出た。


 青い鳥はいなかった。

 どこにもいなかった。

 だが、それで良かった。

 

 あの色とりどりのトリたちに出会えて、彼はそれだけで満足だった。


「小鳥、飼おうかな……?」

 つぶやく声に不幸せさは感じられなかった。






   色

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