~色即是空~ お題『色』KAC20247

白銀比(シルヴァ・レイシオン)silva

流れ廻る

 彼は孤独である。

 しかし、満足であった。

 長きに渡り愛し、愛され、満ち足りた一生で有り、悔いは微塵も無い。


 様々な因果を辿り、多くの関わりを持ってきた。

 時に億劫で、時に安楽し、様々な「縁」を腐ることなく過ごしてきたはずである。


 拠り所は暗く、狭く、じめじめした処ではあるが、最後は孤独にて自身を振り返り懺悔することも、思慮することも、思い馳せることも許された。


 身が朽ち果て、骨すらも灰と化し、塵や埃と同じ脆弱な存在と成る。

 この世界の全ての終着点はただの砂埃に等しい、たった一粒の軌跡。


 数多な砂埃、その集合体の一部となり、孤独を味わう暇も得られず、重力を感じる間もなく飛び散り舞う。もしくは、地中深くに埋まり圧縮され一塊の堆積岩たいせきがんと成るのだろう。


 彼を知るものも塵と化し、彼の存在認知が完全に搔き消えた刹那、因果の律は途絶え「無」へと帰還する。

 輪廻が次元を超え時空をも飛脚し、たった一粒の砂埃をも引き寄せる重力の元へと漂い彷徨う。


 彼が今まで認識してきた世界とは、多くの塵の集合体が混ざり、熱し、冷やされ塊り、また砕かれ漂い混ざる際に偶発的な因果によるもの。

 大半はほぼ永久的にただの隙間に彷徨い漂うのみ。


 だから彼は満足である。自意識と自我が持てた事に。

 故に彼は満足である。彼を認識してくれているモノが一つでも在る事に。


 灯は消える瞬間に、残滓ざんしの業を燃やし輝く。

 土は土に。灰は灰に。塵は塵に……

 

 気化するのも良い。

 煙の臭気としての存在感。

 重力に抵抗する気体として、何物にも留まらさせず果てへの旅路。


 炎の熱と成るのも良い。

 様々なモノへの影響を与える使命感。

 業の糧として役割を全うする、無心の境地へと誘う虚無。


 温度や物質、重力による究極の因果により有機物と生命が誕生し、彼が産まれ迷走する。それはあらゆる具材を遠心分離機に駆けると一つの料理ができる程の因果律である。


 その応報は先天的な偶然か。

 彼らは後天的に選ばれし者と謳う。

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