第12話/【ドーナツ】の前主の元へ

 手紙がもう1枚ある。そう言われて俺は妹の望み通り俺たちにとってのいい知らせが書いてある手紙を渡す。


 その内容はもちろん俺たちの両親のこと。


「――お母さんはまだ見つかってないのね」


「ああ、でも父さんだけでも無事だって知れて良かっただろ」


「良いわけない! 私は……私たちは2人がいなくなってここを引き継いで日々大変な思いをしながら生活してるのに……自分たちの子供の様子すら見に来ないでお母さんを見つけようとしてるなんてバカの極みでしょう!? 確かに無事なのは嬉しいけど無事なら無事で連絡くらい……!」


 パティの言うことはごもっともだ。母さん――父さんにとっての最愛の人を探すのも確かに大事だけど、俺たちの実父でもある。子供を放って自分のことだけを見つめてるのはいささかおかしい。


 だが、なんであれすぎたこと。いくら怒っても父さんが帰ってくることは無い。


「……まぁどれだけ言っても父さんたちが帰ってくることは無いんだけど……はぁ……というかドルセスさんが教えてくれたのはこれだけ?」


「あ、まあ一応」


「そう、じゃあ私は準備するから。兄さんもさっさと準備して」


「なんの……はっ! まさか! 夜這ごふぁ!」


「はっ倒すよクズに・い・さ・ん?」


 冗談のつもりで言ったのだが、俺は再び妹からの正拳を腹に喰らう。


 よろけながらもパティの顔を見るとすっごい怖い笑顔。今までこんなゴミを見るような、それでいて目が笑ってない笑顔なんて見た事がない。


 だがそれがいい。というか、パティの怖さなんて十も承知だ。例えクズと言われようが、ゴミだと言われようが俺にとっては知らない妹の一面を見れたり普通じゃあ絶対に言えない言葉を俺にだけ言うのだから気にはしない。


「さっさと外出の準備。まだ日があるうちにドーナツの元主の方を終わらせないと。時間は待ってくれないよ?。それに、兄さんはもうスイーツナイトを従えるパティシエ。戦場慣れくらいはしておいた方がいいよ。じゃないといざって時に仲間に指示出せなくなるし」


「なるほど……ってちょっと待て。その間の店どうすんだ」


「それなら安心して。【アイスクリーム】と【ショートケーキ】に留守番してもらうから。【ショートケーキ】は会計できるからね一応」


「……心配しかないんだけど」


「気にしてたら事が始まらないから気にしたら負けだよ。それとも【ドーナツ】を酷い目に合わせた奴のとこに可愛い可愛い妹1人だけ向かわせるつもり?」


「よし行こう!」


「チョロすぎ……」


 チョロいとは失敬な。俺は世界一可愛い妹にいやな思いをさせたくないだけなのに。それに俺を納得させるために嘘とはいえ自分を利用するなんて……恐ろしや……。


 というか、【ショートケーキ】が店番できるなんて初めて知ったんだけど。もうちょっと早く言ってくれたら、仕込みから店番まで基本一人でやってる俺は少しゆっくりできたのに! なんなら手伝ってくれてるなら絶対パティとの時間を何度も作れたのに!


 とはいえ知らなかったことは過ぎたこと。その過ぎたことを今さらとやかく言っても仕方ない。俺は自分の中で渦巻く欲を唇を噛みしめ抑えながらいつも着用している仕事着のエプロンを脱いで綺麗に折りたたみ棚にしまう。


 【ドーナツ】の前主、クゥソ・ヤンロの元に行くことになったとはいえ、相手がいる場所は知らない。だが知らないのは俺とパティだけ。【ドーナツ】が前主から逃げてきたから【ドーナツ】には申し訳ないが案内してもらうことになった。


 本人には当然嫌な思いがある。だが俺たちのためならと快く案内を引き受けてくれた。


「ここッスね……【ドーナツ】ちゃんや他のSKを利用してる悪党の住処は」


 しばらくして俺たちは【ドーナツ】の案内の元、山奥の屋敷にたどり着いた。


 辿り着いてすぐ声を出したのは【ヨーグルトキウイ】。戦闘になる可能性が考えられるためパティは彼女を連れてきていた。俺的には他にもいた方がいいとは思うのだが、妹曰く【クッキー】は前に戦闘があり怪我して療養中とのこと。


 SKパティシエの力を持ってすれば即座に回復させることも可能だが、【クッキー】は特殊でどんなに頑張っても回復に時間が掛かるのだそうだ。


 その原因は【クッキー】の能力にあるが……まぁそういうことで現状連れてこれたのは【ドーナツ】と【ヨーグルトキウイ】だけだ。


「こんなわかりやすいところに屋敷があるのにSK協会はなんで手を出してないんだ?」


「さぁ……まぁ考えられるのは一応SKパティシエだったからこそ手強い可能性があるのと、SKを捕虜して手を出させないようにしてるかもしれないってことじゃない?」


 パティの意見は妥当なものだった。確かにそのふたつの可能性があって今まで手を出せていなかったと考えられる。


 しかしそうなると俺たちが来たところでも二の舞じゃないのかと不安だ。


 その旨を伝えようとした刹那、パティは言った。


「不安そうにしてるけど、兄さんは顔バレしてないのよ。考えてみて。【ドーナツ】を仲間にした後にパティシエになってるのよ? 相手がそれを知る機会なんてまずないじゃない。……だから兄さんは演技をしてクゥソを表に連れてきて」

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SweetsKnight《スイーツナイト》~お菓子な騎士達と2人のパティシエ~ 夜色シアン @haru1524

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