第11話/大事なこと

 箱を開けると、丸く赤い果実が1つ入っていた。鮮やかな赤じゃないからちょっと気持ち悪くすら見えるけど、こんなんだっけと思いつつ俺は、その横に刺さっていた紙を見つけた。


「ラブレターとか冗談で言ってたけど本当に入ってるじゃんか……いや、でもこの2つ以外ないしこれが有意義なものか」


 一瞬ドルセスさんを疑ってしまったことに申し訳なさを覚えつつ、その紙を広げてみる。


 やはりというか手紙みたいな感じで文字がずらずらと並んでいた。けれどラブレターなんてものじゃなくて、それは確かに俺にとって……いや、俺たちにとっていい物、そして悪いものでもあった。


 内容はドルセスさんの文字で書いてあって至って真面目なものだった。俺たちの母さんと父さんの捜索にあたり、父フリオンが見つかったものの母フリアンは未だ見つかっていないとのこと。フリオンには1度家に戻るように伝えたらしいが、フリアンを見つけるまでは帰れないと言って帰ろうとはしなかったらしい。


「父さん生きてたんだ……でも母さんはまだ……」


 あれから3年。まさかドルセスさんが探してくれていたとは思ってなかったけど、父さんが生きていると言うだけで心がほっとした。でもそれならそうと直接言ってくれればいいのに、なんでわざわざ手紙で?


 そして、手紙はもう1枚あった。それはドルセスさんのとは違う筆跡で書いてあり【ドーナツ】の前主のことが詳しく書かれているものだった。


「……これは皆が帰ってきてからだな」


 サッと見ただけだが、前主はクゥソ・ヤンロとかいうやつでパティシエの資格を剥奪しているにも関わらず昇華の実を所持し、SKを生産しては人を襲ったり、収穫……つまり強奪ができなかったらSKに暴行を加えるのだという。その中には自分の欲を満たすために行っていることもあると。


 なんとも非道なやつだ。そりゃあ【ドーナツ】が怯えてしまうわけだ。



 

「ただいまです」


「お、おかえり【ドーナツ】。パティもおかえりー!」


「うるさ。頭のネジぶっ飛んだの?」


「今日も今日とてキレのある悪口だ……あ、荷物しまったら少し話しあるからリビングに来てな。【ドーナツ】も一緒にね」


「は? なんで?」


 紙を箱の中にしまい、少ししたら2人が帰ってきた。


 【ドーナツ】がにこにこしてるけど、なんかいいことでもあったのかな。なんて思いながら俺とパティはいつも通りの会話をして、大事な話がありリビングに来ることを伝える。


 けど相変わらず俺に対してゴミを見るような目で見下しているパティは当然のごとく拒絶してきた。まぁ分かってはいたけどね。


 そこで俺はもう一度箱の中から手紙を取りだしてひらひらと見せつけるようにして。


「そうかそうか……パティは父さんと母さんのことは知らなくていいと」


「待ってリビングに行かないとは誰も言ってないから、今のは謝るから私にも、ね? 教えて?」


「……ふっ今まで散々悪口言われてたから、いともあっさりと謝られるとスッキリするなぁー」


「死ねクソ兄さんッ!」


 顔を真っ赤にしたパティが思いっきり殴ってきて、俺のみぞおちに直撃。妹ながらあっぱれだ……。


 

 それはさておき、荷物をしまい終えた2人は約束通りリビングにいた。俺は店の看板をしまってからだから少し遅れてリビングに入った。


「それで大切な話って何」


「そう急かすな。まずは【ドーナツ】のことからだ」


 箱に入っていた2枚目の紙をまずはパティに見せる。【ドーナツ】に見せないのは、前主のことが書いてあるから嫌なことを思い出してしまうのではというのを考慮してのことだ。


「なるほどね……これはつまるところ、私たちへの依頼でもあるって事よね」


「【ドーナツ】も見たいです」


「いいけど……【ドーナツ】ちゃんの前主のこと書いてあるから嫌なこと思い出すかもしれないよ? 大丈夫?」


「え……だ、大丈夫……です!」


「無理はしないでね」


 前主という言葉だけでたじろいでいる【ドーナツ】だが、自分の過去と向き合いたいのだろうか。好奇心というのには程遠いような感じで興味を持ってるのだから多分そうかもしれないけど。まぁ、読むなら無理しないでくれるといいけどね。


 パティが紙を隣にいる【ドーナツ】に渡し頭を撫でる。


 くそ! パティのなでなでをあんな容易く貰えるなんて羨ましいぞ【ドーナツ】! 俺だってパティになでなでしてもらいたいのに!


「……キモイこと考えてるでしょ兄さん……」


 さすがパティ。俺の考えてる事は筒抜けだったようだ。めちゃくちゃドン引きしてる。でもまぁいつもの事だからか直ぐに顔色は元に戻って。


「それで、これは誰から?」


「ドルセスさんから。書いたのは多分違う人だと思うけど」


「それで依頼については」


「いや何も。ただ有意義な物が入ってるって言って昇華の実と一緒に渡されたんだ」


 一体いつの間にって言いたげに俺を睨みつけてくるパティ。別にパティとドルセスさんは仲が悪いわけじゃないはずだと思うんだけど、恨みでも持ってるのかってくらい殺気あるんだけどうちの妹!


 というかもし殺気みたいな感情が本当にパティにあるなら、ドルセスさんとあった時の笑顔は嘘ってことか……なんて恐ろしい子……!


 でもまあそんな所も可愛らしくて俺は好きだが。


 なんて俺が思ってるなんて知らないと思うパティが少し息を吐いてこう言った。


「……ふぅん……なるほどね。とりあえず今のは色々調べてみるとして……もう1つ手紙あるんでしょ?」

  

 

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