第3話 お疲れとご褒美
「さて、ご褒美をもらおうか。膝枕の時間だ」
「口調のわりに言ってることがあんまりだぞ」
「ここまで頑張ったのだから、少しくらいぼくを甘やかしてくれたっていいじゃないか」
どうしてこうなったのかというと、期末試験を控えた今私の部屋で勉強会もとい「内田美玲の理系科目を丸一日かけてどうにかしよう」の会を行うことになり、無事彼女はその責務を終えたところなのであった。
「いやー、でもお前飲み込むの早すぎないか」
「ゆう君の教えるのが上手なだけさ。もう二度と勉強なんてしたくないね」
「おいおい、せめてそう言うのは本番が終わってからにしてくれ。こっちだって頑張ったんだからな」
私がそう言うと彼女は私の頭に手をのっけて、私の髪を梳いてきた。
「ほらほら慰めてやるからぼくのことを早く甘やかすんだ」
「あーわかった、わかった。だからその手をどかすんだ」
「なんだい?恥ずかしいのかい?なら君の頭を撫でまわしてあげることにしよう」
ごしごしごしごし。
「や、やめろー!はげるっ、親父より先にはげてたまるかあ!」
「なんだその言い草は。ぼくのような美少女からの施しをうけているんだぞ?甘んじて受け入れんさい」
「ちょっ、痛い。まじでっ、はげるから。やめないならお前へのご褒美はなしだぞ」
すん。
静まった。
飼い主の言うことを忠実に聞くわんこ並に静かになった。
「たく、最初からおとなしくしてくれれば膝枕ぐらいやってやったのに」
「最初からおとなしく膝枕をしていれば、数ある君の髪の毛から犠牲がでなかったというのに」
「でたのか!犠牲が!」
「ふっ。真相は藪の中だよ」
「芥川みたいなことを言っても騙されないからな!」
「そういう君はいつもに増してげんきだね」
「お前のせいだよ」
「ぼくのおかげで元気でいられるとは。君、うれしいことをいってくれるじゃないか」
「あーだめだ。こいつめっちゃポジティブじゃねえか」
「そんな日もある」
「そんな日もある」
今ぼくは天国のなかにいる。枕はちょっと固めだが、彼の体温が感じられるのは今も仕事で飛び待ってるであろう両親のいない寂しさを忘れさせてくれるのだ。ゆう君や、ついでに頭を撫でてくれてもいいんだぞ。そんなことを考えていると段々とまぶたが重くなっていくのを感じた。そして気が付くと.........
「......い.........おーい、起きろお、寝るなら布団で寝ろ」
心地よくまどろんでいたところで、彼の声に起こされてしまったようだ。
「あーもう。すごくいい感じだったのに......もったいない」
「気持ちよさそうにしてたところ申し訳ないが、もう俺の足が限界だ」
急に血液が流れ始めたのか彼は悶えはじめる。
「よくこんな固い膝でぐっすりと......」
「えいっ!」
つん。
「あ”っ、あぁー」
彼はその場でカーペットの敷かれた床に突っ伏す。
「なぁっあー、足がああ」
「ぼくの幸せな時間を一つ奪った罰だ。それにしても、飛行石をもっているとこんな光景が間近で見られるのかあ」
「俺は何も突っ込まないかr......」
つん。
「なあぁ”あー」
壮観だった。
そんなこんなでテスト期間も過ぎ、終業式を待つのみとなった。
彼のおかげで無事に余裕をもって赤点をまぬかれたわけなのだけど、彼の点数はどうだったのだろうか。
たしか、彼が言うには今回のテストでよほどのことがなければどの教科でも評定が5になるはずだといっていた。帰ったら結果を彼に聞いてみようと思う。
さて、いつもの私ならば家につく前に彼に結果を聞くのだけれど、どうして私はそうするつもりがないのでしょうか?
ちくたく、ちくたく。
正解はー?友達とのお疲れ様会でしたー。パチパチパチパチ。
うん。なにやってんだ、私。
冷めるのが早かったけど、実は私には親しくしている友達がいるのだ。
本当ならテスト最終日にやるつもりだったんだけど、その日は予定がそろわなかったのでテスト明けの今日にひらかれることとなった。
というわけでその彼女たちと近くのファミレスにやってきたわけなんだけど......
「で!三島との仲はどうなの?」
そう聞いてきたのは同じ中学からあがったらしい桜田花梨という女の子だ。
らしいというのは、彼女と知り合ったのは高校に入ってからのことで、彼女と話すうちにお互いの中学校に共通点が見つかったという珍しいケースの出会い方をした子だ。
そしてその隣に座るのが、
「りんちゃん、ド直球すぎるよ!もうちょい柔らかく聞こうって話し合ったじゃん」
島田葵、小さくて人懐っこく男女両方からの人気の高いムードメーカーだ。
今紹介した彼女らは私に隠れて企んでいたらしいので問い詰めることにしようか。
「だってりんちゃんが」
「最初に言い出したのは葵のほうだよ?」
「りんちゃん!」
首謀者はこいつらしい。ほとんど何も聞いていないのに吐いてくれた。
「まあ別にいいんだけどね。彼とぼくはね、何でもないよ。ただの幼馴染」
「ほんとにほんと?いつも一緒にいるんでしょ?」
「いつも一緒にいるからといって、それが恋につながるというのは違うだろう?それに幼馴染はどの作品でも負けヒロインなのだよ」
「ヒロインってことはじゃあ好きなのは認めるのね」
「まあ彼のことは好きだよ。だけどヒロインっていうのはもののたとえで......」
目の前に座った花梨君はぼくのほうを見つめてにやにやしている。
だから何回言ったら伝わるのやらと思っていると後ろから......
「面白そうな話してるじゃん」
振り返るとそこには花梨君と同じく顔をニマニマと緩ませながらこちらへ話しけてきた市川君と.........
その隣に、ぼくに見つかって顔を驚かせている私の幼馴染が立っていた。
今日はハンバーグが食べたい @moyu_kiquasar
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