第2話 約束

 中学校での部活動体験期間最終日に『奏でる』とは何か

 を知りたくなって、私は部活動申込書に『吹奏楽部』と書いて担任の先生に提出した。

 家に帰り、家族に吹奏楽部に入部することを話すとお父さんは約束と違うと怒鳴り散らし、挙げ句の果てに学校に電話をして、娘の吹奏楽部へ入部届を取り消してほしいと交渉し始めた。学校側も驚き、明日三者面談の形で話し合おうと言うことになった。確かに私が100%悪い。女子テニス部と書いた申込書にはんこを押してもらい、文字を消して別の部活の名前を書いたんだ。そりゃ私が悪い。

 そして翌日、私と父、担任の先生と副担任の計4人で今回の件の話し合いをした。

 自分の娘をどうしても運動部に入れたい父親と、何を聞いても何も答えない女子生徒。先生方にはほんと申し訳ないことをしていると思ったが、その場で父がヒートアップして暴言を言う方が問題になると思ったから火に油を注いではいけないと何も答えなかった。そうすると先生方は、1人ずつ話したいと言い、父を別室へ向かわせ私と先生がたの3人で話し始めた。最初に私が勝手にかき直して提出したことを認め、誤り、それに関しては怒られた。でも私は、何を根拠に吹奏楽部に入りたいのか言語にするのが難しく、直感です、と言うしかなかった。

 その次に私と父が交代し、私抜きで話してた。その話し合いで何を話していたかは聞いてないのでわからないが、ものすごく長かった。

 そして、私が部屋に戻りもう一度4人で話し合いを始めたときには父の怒りは収まりつつあるなと感じた。

 最初に口を開いたのは、担任の先生で

「まだ12歳、13歳の言うことは信じられないし、教師として近くにいても信じられることはほんの一握りですが、直感だけは私たち大人よりも、何も知らない子供たちの方が優れえていて、時には私たち大人の想像のはるか上をいく時もあります。私は真冬さんの担任という立場でまだ日も浅く、中立的な立場にいないといけないことはわかっていますが、今回は12歳の直感を信じてあげたいです。」

 と饒舌に話してくれた。

 そんな話を聞いて父も吹奏楽部に入ることを許してくれた。でも吹奏楽部で一生懸命に活動し、結果を残すこと。これが吹奏楽部に入る条件だった。私はそんなのどうだってよかった。早くみんなと音楽をしたいこと以外頭になかった。

 約1週間後、一年生の部活動が本格的に始まった。

 吹奏楽部はまず初めに自分の楽器パートを決めなければならない。吹奏楽部に入った一年生はそう多くはなくて、すべての楽器パートで募集しているわけではなかった。

 とりあえず、新入部員の一年生は順番に各パートの楽器を吹けるかチェックし、それを先輩がチェックして誰がほしい、やどこのパートと掛け持ちさせるかなどを決める。その間一年は気持ち程度の希望パートアンケートを書いて静かに待っとく。

 その年の吹奏楽部部員は新入部員も入れて27人といった少ない人数だったこともあり、先輩たちはものすごく悩まれていた。

 私は、吹奏楽部に入ったらやりたい楽器は最初から決まっていて、フルートがやりたかった。幼い頃から横笛を吹いていて吹き方は似ているし、音も綺麗で、これこそ自分に向いている楽器だ!なんて思ったから。なので、

 第一候補フルート 第二候補ホルン 第三候補クラリネット

 と書いた。今ではなんて木管寄りなんだろうと思うがさすが自分だなとも思う。

 そんなことを書いている私の横にはリョウカが一生懸命アンケート用紙に書いていて、第一候補トロンボーンと書かれていた。第二候補は打楽器だったと思う。

 なんでトロンボーンなのかと聞くと、トロンボーンの先輩と話していて楽しいからだという。いいことだなと思った。

 そんなこんなで、先輩たちも新入部員一年生の楽器パートを決めて顧問に確認を取っていた。その顧問は一度私たちから3つ上の先輩たち全国に連れて行っていいるちゃんとした実績がある人だということは後々知ることになる。

 そしてついに吹奏楽部3年間のほとんどを左右するっ楽器パート振り分けが行われた。

 新入部員一人一人名前が副顧問に呼ばれパート名を発表される。でも私はそこまで緊張していなかった。なぜならフルートパートを体験した時、横笛をやっていた経験を活かしうまく吹いて見せたから。自信があったし、何よりフルートの先輩が真冬ちゃんを入れたいと顧問に言っているのを聞いていたから。私は確実にフルートパートで決まりだと確信していた。そして私の名前が呼ばれ、

「○○真冬、ホルンパート兼打楽器パート鍵盤」

 という副顧問の声が視聴覚室に篭った。


 は?言ってる意味がわからなかった。フルートは?誰かに取られたのかと怒りが湧いたが、次々と呼ばれる名前の次にフルートパートという言葉は出てこなかった。ということは今年の新入部員の人数的にフルートパートに入れる人数が合わなかったということだろう。ショックだった。本気で泣きそうになった。私以外の新入部員はリョウカも含めみんな第一希望の楽器に配属になっていた。決して、ホルンや鍵盤楽器が嫌、そのパートの先輩が嫌なんてことは一切なくどの先輩も優しくて、本当にいい先輩だった。

 そして、そこに追い討ちをかけてきた副顧問が

「何かと掛け持ちで言われたパートの方は1年間は掛け持ちの楽器の方のみ練習してもらいます。今年のコンクールは掛け持ち楽器でででもらいます。」

 は?という言葉を喉で押さえて楽器説明の場所に向かった。最初はホルンの説明で、ホルンはハルの担当楽器でもあるため、ハルから楽器説明をしてもらった。

 説明の最後には必ず「‥まぁ、一年はこの楽器吹けないけどね。」と言われ殴ろうかと思ったが、その場では一応先輩なので我慢した。そんなやりとりを見てホルンパートの三年生の先輩が「知り合いなの?」と興味津々に聞いてきたので冗談とハルへの仕返しでプロだった頃の同期なんです〜なんて笑って見せたらものすごく笑ってくれて、いいパートだなと嬉しくなった。

 そして、次に1年間お世話になる打楽器パートでの楽器説明をしてもらった。打楽器パートの先輩は2年生が2人、そして今回一年生の掛け持ち配属で入ったのが私を含め3人。最初にそれぞれの担当楽器を見せてもらい、私の場合は鍵盤全般で、木琴や鉄琴類はもちろん鉄琴のさらに上の高い音が出るグロッケンも担当になった。本当はピアノなんかも担当になるパートだったが、今回のコンクール曲にピアノ伴奏がなかったのでピアノは担当にはいらなかった。打楽器の先輩2人も部内で夫婦と言われるくらい仲が良くて面白いで少し安心した。

 新入部員がそれぞれ楽器説明をされていて、その中にリョウカもいた。リョウカは第一希望のトロンボーンパート配属になり、とても浮かれて仲良くなった先輩とワイワイ話していて私まで嬉しくなった。その日の部活動はそのくらいで、まともに楽器を触ることなく終わってしまった。

 帰り道、学校の最寄り駅でリョウカと電車を待っているとハルがのんびり歩いてきた。ハルは私のいとこでもあり、私とリョウカとの小学校からの幼馴染のためみんなでいるのが当たり前になっていた。そんな3人が集まるとまともな話なんかするはずもなく、私は、フルートパートになりたかっただの、打楽器の先輩は面白くて好きだけど、1年間管楽器吹けないなんてありえないなどいろいろ愚痴を漏らしてた。

 そんなくだらない話をしていた時、リョウカがゆっくり口を開け、

「この3人がいるステージだったら、誰にも負けない演奏できる自信しかない!」

 と満面の笑顔で言った。この子はどこまで強いんだろうと不思議に思って私は

「コンクール、優勝できるかな」なんて口にしていた。そうするとハルは

「吹奏楽のコンクールは優勝とかじゃないんだよ。金賞っていうのをとってついの大会の切符を取らないといけないんだよ。」

 と教えてくれた。それを聞いたリョウカは大きな声で

「絶対金賞!!!!!」

 と強く言った。そしてリョウカの声にびっくりしている私の方を見て

「今度は一緒に次に行こうね。」

 と優しく言った。

「うん。約束だよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最後の別れ Mふゆ @Mfuyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ