最後の別れ
Mふゆ
第1話 私からあなたへ
あの波が無かったら生まれる筈のない私の話。
冬の大きな波と共に
まだ肌寒い頃に私はリョウカ言うらしき女の子に話しかけられていた。その子は私が返した言葉にあっと驚き、
「怒ってるの?」
失礼だな、と思いながら怒ってないと伝えると、パッと明るい笑顔で
「それならリョウカと遊んで!」
そんなやり取りをして3年と少し経った頃、私とリョウカはお互いに親友と思えるくらいの仲になっていた。そんな年、私とリョウカは何度目かの小学校の運動会を迎えていた。子どもらしく必死に敵のチームに勝とうとしていた。
そんな最中に私の実の父からの呼び出し。そこには担任の先生と父、姉がいた。
急いでるようで、話は車で。と
私も急ぎ、車に乗ると急発進で小学校を後にした。子供の私は気持ちが追いつかず、小学校の運動会よりも大事なことってあるのだろうかなんて考えながら、お昼に食べる予定だったおにぎりをほうばった。
「
こんななんてことない言葉がずっと忘れられない。きっと私のことを想っていっていくれた、優しさの言葉。それでも私はこの言葉を言った親族のことはきっと悪い意味で忘れないと思う。
母との最期と遮った言葉だから。
「お母さんはガンって言う病気でな、もう今日で会えなくなっちゃうから、最後にお話ししてお別れしような。」
言い終えて下唇を噛んでいたお父さんはいつもと何か違って見えた。
運動会の疲れなんて忘れてしまっていた。
私はその当時お母さんがガンって言う病気にかかってて病院に行かないと会えないのも、たまに帰ってきても救急車で病院に運ばれていくのも何度も見てたから。知ってた。知ってたけど、知らないふりしてた。知らないふりしてれば、わからないし、みんな笑っててくれたし。
けど、もう会えないってどういうことなのかきっと私はまた知らないふりをした。
それでも時間は卑怯者だから止まってはくれなくて、目の前の景色が光って見えた。
ガラッと無造作に開いた扉の中には、いつも見ていた白くて綺麗なベット。その周りには何回かしか会ったことのない親戚のみんながベットを囲んでた。
慣れていたはずの消毒のツンとする香りにお昼ご飯の匂いが混ざりなんとも言えない
匂いに包まれながら、私は銀色に光るレールを跨ぎお母さんの元へ。
すごく長い廊下のように感じた。一歩がすごく軽くて、フワッと今にでも飛べそうなくらい、軽すぎて全く足が地につかないようなそんな気がした。いつもとは何かが違っていた。
「お母さん。」
たくさんの管が繋がれていたお母さんが目を細めて、
「ごめんね。」
と言って、続けて
「笑って、フユなりに愛して。カナデて。」
と言った。
これで最後なのかと、心の中では言葉に表せないくらい膨大な逝かないでを話してたと思う。けど口から出た言葉はたったの
「お母さん、」
そんな時間がどのくらい続いただろう。1分、いや30秒も経ってないかもしれない。
「真冬はここにいなさい。」
と言われて出されたのはさっきまでいた病室の前の廊下。たった1人で。
夏なのにひんやりともあっとした空気の中私は息を吹き込んだ。
それからはすぐだった。大好きだったお母さんはこの世をあとにした。お母さんが寝ているベットがゴロゴロと音を立てて廊下に出てきた。お父さんに買ってもらった紙パックのぶどうジュースを両手で一生懸命に温めながら、ベットの横にへばりつきながら泣きじゃくって叫んでいた。
何日か経って、私は運動会明け初めての登校。
リョウカは必死になって私を笑わせようとしてくれた。机を隣にくっつけて広い教室の真ん中で2人の交換ノートに大丈夫だよと書いてくれた。
それからは、あっという間で小学校6年生。お姉ちゃんたちは中学受験をして頭のいい私立の先進校に入学していた。当然のごとく私も受験をして、頭のいい中学校に行くのだという。それなら私も、とリョウカも週4日一緒の塾に通い、進学に向けて必死に勉強と向き合った。リョウカは私の前では絶対に弱ったところは見せず、机に向かって問題を解いていた。
そんなこと、私が弱音を吐かずに続けられるわけもなく、一度お父さんの前でもうやりたくない。私なんかが頑張っても意味はない。お姉ちゃんたちやリョウカとは違う。と言ったことがあった。お父さんはそんなに嫌ならとすぐに塾を辞めさせた。
私は、安堵と複雑な気持ちでぐちゃぐちゃだった。リョウカにあの中学校の受験は諦めようと思う。と伝えると
「フユはそういうと思ってた。無理は良くない。」
と言ってくれた、そして私は頑張ってみるとも言っていた。一度やるといあったからには両親に申し訳がないのだろうなと思っていた。
冬が過ぎ去ろうとしている頃、リョウカのお母さんからLINE届いた。
『リョウカの受験だめだったの。春からはフユちゃんと同じ中学校だよ!これからも仲良くしてあげてね。』
と言う内容で、私は最低な人間かもしれない。少しまだ一緒にいれると春が楽しみだと浮かれてしまった。
そのあとはリョウカと会って中学校ではこんなことしたいね、なんて話した。
小学校の卒業式は小さい学校なのもあって小規模なものだった。リョウカと2人で袴を着て祝い合った。
短い春休みを挟んで私たちは、最寄駅から一駅進んだところにあるいくつかの小学校が統合されている地域の中学校に入学した。
私とリョウカは1年生で同じクラスになって、周りも浮かれてる中1人私は一枚のかみと睨めっこしていた。
条件:地域の中学校の運動部に入って県大会以上の成績を取ること
これは中学受験を諦める時のお父さんとの約束だった。私は3人姉妹の末っ子で上の姉2人は出来が良かった。良かったと言うよりは早くに母親をなくしていい学校に行ってお父さんに恩返しをするのだと張り切って勉学に取り組んで、中学受験をしてそれなりの成績を叩き出していた。そんな姉2人を見て育った歳の離れた末の私は、勉強などほっぽり出し、運動ばかりしていた。それでも運動の才は小学生なりには合って、いろいろなスポーツの習い事をしたもので、それを見たお父さんはこんな条件を出したのだと思う。
中学校に入学して1週間は部活動体験期間があり、どの部活を見に行っても良しの期間があった。クラスの友達と初日に行ったのは吹奏楽部だった。
第一印象は、身内がいる、くらいだった。
だって本当にいるんだもん。一つ年上の母方のいとこ
そんなハルがいたのは中学校四階の音楽室。その横の視聴覚室にもたくさんの吹奏楽部の先輩と、楽器がずらり。ちょっとだけ威圧感を感じた。
ハルが担当していた楽器はホルンだった。丸くて長くて吹きにくそうだった。
そして、いろんな楽器を吹いて、たくさんの先輩方と話して、明日も来てね!ねんて言われ苦笑いで返してその日は下校時間となった。
次の日も小学校の復習のような授業を新しい教科書を眺めながら聞いて、放課後。
私はクラスの友達と校舎の裏のテニスコートで活動を行なっているテニス部に行ってみた。第一印象はすごく楽しそうだった。ワイワイ楽しく部活をして仲良く部活時間を過ごすようないわゆるお楽しみ部活のような場所だった。ひどく吐き気がしたのを覚えてる。ここに入らなければならないと言われている気がした。
次の日もその次の日もいろんな運動部を見に行った。女子バスケ、女子バトミントン、男女混同バレー、どこに行ってもここに入らないといけない気がしてなんだか足が重くなっていた。
部活動体験期間も終わりに差し掛かり、クラスの半分以上が部活の申込書を担任に出している中私はその波に乗り、女子テニス部と書いて親からのハンコをもらった紙を机の中に押し込んだ。
部活動体験最終日の昼休み、私はハルの元に助けを求めて先輩の教室がある二階へ階段を登っていた。周りにいる先輩たちからの視線が怖く一度教室に戻りリョウカに一緒についてきてもらい2年1組へ向かう。ハルの教室について呼び出し、ハルに部活をどうしようか迷っていると相談していた時、ハルと同じクラスの吹奏楽部の先輩がリョウカちゃんだ!とリョウカと話していた。リョウカは入学前から吹奏楽部に入ると前から言っていたし、申込書も出したことも知っていたので変な心配はせずハルと話していた。
「それなら、今日は吹奏楽部の体験会はいつもり20分遅いんだよ。体験の前に色々あるから。」
と言って、体験会が始まる時間には自分の教室でリョウカと話してろとアドバイス?をもらって昼休みが終わった。最終日に相談する相手を間違えたと落ち込みながら午後の授業を受けた。
部活動体験最終日の放課後になってしまった。教室には私とリョウカと2人、部活どこに入るか悩んでる。と話すと
「まだ悩んでるの?!そんなに悩んでるなら吹奏楽部に入ろう?一緒なら絶対楽しいよ!」
そんなこと言われて嬉しくないあほはいるのだろうか。そんな話をしていたら廊下のずっと奥の方から何かが聴こえてきた。
リョウカは目を輝かせて見に行こうと私の手を引っ張って走り出した。少しずつ大きくなる音の正体はハルたち吹奏楽部の演奏だった。
廊下に響き渡る音に私は何も言えなくなってしまっていた。すごいすごい!と跳ね回るリョウカを横目に私はこれが奏でると言うことか、とそれ以外何も考えられなかった。
ほら見たかと言わんばかりのハルのドヤ顔には少し腹が立ったが、本当に先輩なんだと少しだけ実感した。
吹奏楽部は部活動体験期間最終日に校内を歩き回り、爆弾を落とした。
「決めた。」
目の前を通り過ぎていく吹奏楽部を追いかけるリョウカにそうひと言残すと、駆け足で教室に向かい、机の中のくしゃくしゃになった紙を広げ伸ばして、『女子テニス部』と書かれた文字を目一杯消し、殴り書きで『吹奏楽部』と書いた。
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